理想と現実 2

 飛空要塞の最奥部では、ヴァルトルートが横にエルザとナギを従えて、目の前にある映像パネルを見つめていた。映し出されているのは自分の要塞とラヴロフの要塞、それに、こちらの迎撃範囲内に入ってきた敵戦艦の様子だった。

 ヴァルトルートの右側にいるナギは、物々しい軍服を着ていた。ヴァルトルートがナギのためにだけ発注させた特注の服だった。

 ナギの洗脳は終了していた。そのうえで徹底的な教育を施し、この要塞全ての軍人を束ねる将校にまでなっていた。だから、ヴァルトルートは、彼女を非常に気に入って自分の右腕として働かせることにした。

 エルザは、その姿を見ていて自分が誇らしくなってきた。エルザの作戦は成功し、ヴァルトルートが喜んでくれている。自分のおかげでナギをここまで持ってくることができた。ヴァルトルートに認められることだけが、エルザの生きる意味だったからだ。

「さて、彼らはまず、ここに近づくことができるかしらね」

 ヴァルトルートは、近づいてくる戦艦を鼻で笑った。そのとき、戦艦を攻撃する迎撃ミサイルが途中で姿を消していることに気が付いた。

「ナリアの力で相殺されています」

 横で、ナギがアドバイスをくれる。すべてのシリンの特徴を知っているナギがいれば、こちらの作戦も立てやすい。

「飛空要塞に傷をつけないためには、おとなしく彼らを迎えるべきかと。そのうえで、この迷路で私がじかに彼らの相手をいたしましょう」

 ナギは、うつろな瞳でそう言った。

「ナギちゃん、横付けはどうしても許さなければならないの? その前に、やっつけちゃおうよ」

「お言葉ながらエルザ様、彼らのもとには三人もの惑星のシリンがいます。彼らは広範囲で核ミサイルを分解して銀に変えることができるほどの力を持ちます。ミサイルの迎撃で足止めをしていると、こちらが弾切れを起こします。その時に戦艦から砲撃があればひとたまりもない。ここは、あえて退いて、彼らに警戒させつつ横付けさせるところまでいかせるべきかと。この要塞の攻略は私が許しませんから、ご安心を」

 ナギの回答は、二人を納得させるには十分だった。ヴァルトルートは彼女を信頼していたし、また、その手腕を買ってもいた。

 ヴァルトルートは作戦執行に関しては無口を通していた。こちらの作戦を悟られないためだ。あちらに地球のシリンがいる以上、余計なことを口にするわけにはいかない。

 ナギが部屋を後にするために、部屋の開閉スイッチに手をかけた。そして、ヴァルトルートをちらりと見た。その瞳はいまだうつろで、エルザの洗脳が効いている証だった。

「エルザ」

 ナギが出て行ってしまうと、ヴァルトルートはエルザを自分のもとに呼び戻した。そして、親しげに左腕を絡ませてくる彼女の手を、握りしめた。

「おそらく、本当に信頼できるのはあなただけかもしれないわね」

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