理想と現実 3
飛空要塞からの迎撃ミサイルは、数発だけその破片がこの船のバリアに当たっただけで、止んでしまった。船の中からそれを無効化していたナリアは、すぐに艦橋に戻ってきた。
「弾を温存しているか、もっと近くに俺たちを寄せて大ダメージを食らわせる気か」
冷や汗をかきながら舵を握るアントニオのもとに、ナリアは少し悲しそうな顔をして、やってきた。
「おそらくは、そのどちらでもないでしょう。船は要塞に横付けできると思います。思い切って、寄っていってください」
ナリアの悲しい顔、その意味がまだアントニオには分からなかった。アースを見ると、いくつかの通信機器とインカムを繋いで作業をしている。その顔には焦りもなければ、ナリアのような悲しみもなかった。
アントニオが、ナリアの言うとおりに、ミサイルの飛んできたほうの要塞に向かって舵を切ると、町子が焦って艦橋に入ってきた。
「ミサイルは? 大丈夫なの? みんな不安がっているけど」
すると、通信機器をセットし終わったアースが、町子に向かって笑顔を見せた。
「ミサイルはもう飛んでこない。そろそろ突入だ。皆に準備の号令を」
町子は、その伯父の言葉を信じた。急いで艦橋を離れると、全ての人間にそれを伝えるべく走り回っていった。この船に放送設備がないわけではない。先程アントニオも使った通り、きちんと装備されている。だが、こういうことに艦内放送を使う気が、アースには全くなかった。
戦艦が、要塞に横付けできるぎりぎりまで近づくと、皆を迎えるかのように、要塞はその一部分だけ開けた。うじゃうじゃと集まってくる人工シリンや化け物たちがこちらを伺っている。
「どうやら、俺たちは歓迎されているようだけど」
アントニオは、そう言ってタラップを出した。戦艦の入り口には朝美とカリムがいて、弓に矢をつがえていた。その後ろにはミシェル先生やソラートたちがいた。
その様子を見て、アースが立ち上がって艦橋を出た。その姿を見て、底知れない頼もしさを見たアントニオは、もしかして大丈夫かもしれない、そう思えるようになっていた。
タラップがすべて下りてしまうと、向こうから大量の化け物がこちらに向かってきた。勢いが良すぎて何体かの化け物は足を踏み外して遠い海のほうへ落ちて行った。
「この前とは一味違うよ! 存分に味わいな!」
朝美の矢が彼らを捕らえる。早撃ちには慣れてきた。そんな彼女の矢は確実に化け物を倒していき、後ろから走り出すミシェル先生とソラートをうまく援護していた。
化け物の大群が退いていくと、船内にいたすべての戦闘員が要塞の中に入っていった。
「残りは俺に任せて、皆行ってくれ! ここは俺が守る!」
カリムがそう言って、横にいたテンから矢を受け取った。
「みんな、頑張ってね! テンも頑張るからね!」
テンとカリムに背を押されて、皆は戦いながら要塞の中に入っていった。
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