傍観者たち 7

 ナリアがこの地球に来てからというもの、屋敷中の皆が彼女を見たくて仕方がなくなっていた。特に男性はそれが強いらしく、彼女を見た者は、その神々しいまでの美しさに心を打たれては背筋を伸ばして帰ってきていた。

 それを呆れて見ていたのはアイリーンとクローディアで、いつものように天使たちと一緒にお茶をしながら、愚痴を言っていた。天使側のメンバーはカリムとカリーヌだった。ソラートはアメリカだし、ミシェル先生は輝の部屋で町子たちの勉強を見ている。輝はけがのせいでかなり勉強が遅れていたし、また、次の目的地へ行く相談をしなければならなかったからだ。

 アイリーンは、ため息をつきながら紅茶のカップをソーサーの上に置いた。

「ナリアがいくら綺麗だからって、騒ぎすぎよ」

 その姿を見て、姉のクローディアがくすりと笑った。

「それも、必ずと言っていいほど緊張して帰ってくるのよ。おかしいったらないわ」

 クローディアはこの状況を楽しんでいる。アイリーンはあまりいい気持がしなかったが、少しその感覚が分かってきた。正面でお茶を飲んでいるカリムが、アイリーンとクローディアをちらりと見た。

「女ってのは分かんねえな。なんでも噂にしたり、愚痴にしたり」

「あら、そんなカリムはナリアに興味がないの? いっぱしの男なのに」

 隣でカリーヌが茶化す。カリムはムスッとして、紅茶をテーブルの上に戻した。

「俺だって、そりゃ気になるさ。でも、まだ駄目だ。事態が落ち着かないと彼女には会いに行けない」

 すると、アイリーンが嬉しそうに笑って、お茶を飲んだ。

「カリムは、バーゲンセールには向かないタチね」

 その意見に、皆が笑って応えていると、ミシェル先生が輝の部屋から出てきた。ため息をついて、ソファーに座る。芳江に追加のお茶を頼むと、疲れたような顔をして皆を見渡した。

「あの子たち、もう次の目的地のことを話していたわ」

 誰に言うわけでもなく、ふとこぼした一言に、そこにいたシリンたちはびっくりしてミシェル先生を見た。彼女がそんな弱音を吐くなんて。

 みんなに注目されたミシェル先生は、少し恥ずかしそうに、下を向いた。

「それで、次の目的地は? メンバーはどうするんだ?」

 興味深げにカリムが聞いてくるので、ミシェル先生は頭を抱えるのをやめて、いつものように胸を張った。

「日本の、安曇野。そこにリンゴのシリンがいるのです。彼女は別名、夢を紡ぐ者。皆に夢を見させる場所が多い安曇野の土壌が、彼女の能力を育てたのでしょう」

「あら、安曇野なんだ。青森じゃなくって」

 カリーヌが頬杖を突いて、眉を上げて笑った。少しその話に関心が出てきたのだ。ミシェル先生は表情一つ変えずにカリーヌに返した。

「私たちは全員、信仰心の集まりであるイェルサレムに生まれていますか? 私はこの英国、カリーヌはフランス、ソラートはアメリカ、カリムに至ってはアラブ系の移民ではないですか。すべてのシリンが、最も生産量の多い土地に生まれるわけではないのです。何らかの伝説や伝承、そして瞳さんのように、想いの強い場所。そのような場所に生まれるのですよ。安曇野には道祖神や八面大王という信仰があります。おそらくそこに定着したのでしょう」 

「まあ、それはそうよね」

 カリーヌが少し納得したように紅茶を手に取って飲んだ。

 そして、次にはこう質問をしていた。

「それで、ミシェル、メンバーは誰で行くの?」

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