傍観者たち 6
エルとモリモトが、アースと交代する時間が来て、部屋の中にいたナリアとアースは外の庭園に出ていった。陽はとっくに暮れ、夕闇の中、ぽつぽつと灯り始める家々の明かりを見ながら、アースとナリアは庭の真中の噴水の淵に腰かけた。
「なんで来た、そう言いたそうな顔ね」
アースは両腕を膝の内側に垂らし、明かりの灯る集落のほうを眺めていた。ナリアはにこにことしながら、アースのその顔を見た。
「ナギのことでしょう。彼女があなた自身であることを、まだ輝さん以外には告げていない」
「輝には、ナギが告げた」
「そうでしたね。ナギに聞きました。彼女はもともとあなたの一部、女性の姿を取ったあなたの一部だったはず。だから同じ空間には同時に存在できなかった。しかし、彼女が一人の人格として目覚めたときから、あなたは彼女を自身から切り離すことを決めた。そして、今のナギがいるのですね」
アースは、頷いて、頭から髪の毛をかきあげた。
「そうそう、思い通りにはいかないものだな」
すると、ナリアはくすりと笑った。
「私たちが物事を思い通りに進ませてしまえば、支配者になってしまいます。それは嫌ですよ」
「そうだな」
アースとナリアは、そのまましばらく黙って夜空を見上げたり、遠くの灯りを見つめたりしていた。ナリアとアースはよく似ていた。だが、全く違っていた。もともとは一つだったものが二つに分かたれた存在。二人はそういう存在だった。
「月の箱舟のことについては、調べさせてもらいました」
静寂を切り裂いたのは、ナリアだった。
「あなたにとって荷が重いとは思えません。しかし、もっと、他人を頼らなければ、あなたが崩れてしまいますよ」
ナリアはそう言って、アースを見た。少し、寂しそうな顔をしている。
アースは、これまで何人もの人間をこの件に巻き込んできた。そういう考えが強かったものだから、なるべく自分の力をフル活用して解決しようとしていた。
しかし、事は地球のシリンだけの問題ではなくなっていた。そもそも、アースも巻き込まれたクチだ。これはすでに皆の問題だったのだ。
「分かってはいるのですね」
アースは何も言わなかった。ナリアが頭を肩の上に乗せてくる。アースはそれを拒まなかった。ナリアは姉であり妹。双子の存在だったからだ。
「そろそろ、あなたも感じる頃でしょう」
そう言って、真剣な顔をしたナリアは、その瞳でまっすぐ上天を見た。
「感じている。すでに」
アースは、そっとナリアから離れて、立ち上がった。
「ナリア、ここに三人が揃うことがどういうことか、分かっているんだろうな」
ナリアは、頷いた。そして、上天を見るのをやめて、アースをしっかりと見た。
「ナギのこともあります。ここは戦力を整えるのがよろしい。月の箱舟は、待ってはくれないのですから」
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