壊れた金細工 8

 黄色に変色していた砂が突然青くなった。

それは、ラヴロフのシリンの完成を意味していた。

 イクシリアは急いでそれを告げにアースのもとへ走った。彼は今、ロンドンにある医学研究所に行っているはずだ。そこへは車で行くしかない。歩いていくには遠すぎた。

 シリウスに車を出してもらうように頼むと、彼は快諾してくれた。イクシリアはシリウスとともにロンドンに向かい、フォーラとエル、そしてモリモトはそれぞれの場所に戻ることにした。

 エルが自分の部屋に戻ろうと階下へ降りていくと、大きく開かれたロビーから外が良く見えた。ちょうど、輝たちが学校から帰ってくる時間だ。見ると、輝や町子たちが笑いながら屋敷に帰ってくる。声をかけようとすると、エルは突然激しいめまいに襲われて、立っていられなくなった。体勢を立て直すと、めまいはやんで、元の状態に戻った。

「なんだったんだ、今の?」

 不思議に思って町子たちを見ると、不思議なことが起こっていた。

 突然、町子と輝が口論を始めたのだ。

 何が何だか分からないのはエルだけではなく、メルヴィンやメリッサたちも困った顔をしていた。

「やめなよ町子、どうしちゃったの? 友子も止めてよ」

 朝美が焦って、町子の肩に手を置くと、彼女はその手を振り払って、輝に突っかかっていった。

「武器もなしで、体術だけで月の箱舟の連中を相手にしようなんて、強がりすぎなんじゃないの? 所詮武器も作ってもらえない、親友って呼べる人間の一人もいない。そんなんじゃダメなんだよ。空港でもそうだったでしょ。武器を持っている私はみんなに頼りにされた。でもあなたは何もなかった」

「思いあがるなよ」

 輝もまた、町子と同じように負の感情をあらわにしていた。その負のエネルギーを感じて寄ってきた悪魔の双子少女は、皆に見つめられて肩をすくめた。

「空港で町子が活躍できたのは、おじさんがいたからだろ。町子の力じゃなく、あれは槍の力だ。それに、俺には友達がいないんじゃない。そもそもお前がここに無理やり連れてこなければ俺だって友達の一人や二人、ここにいたはずなんだよ。それに今はメルヴィンやおじさんだっている」

「伯父さんが輝の親友? 笑わせないで。伯父さんは輝が戻す者だから付き合ってくれているんじゃない。勘違いしないでよ」

「勘違いしているのはお前じゃないのか? ただ血がつながっているだけなのに」

 輝と町子の、この不毛な戦いはいつまでも続いていた。明らかに変になっている二人を見て、クローディアとアイリーンは考えていた。

 これは遠隔地からのマインド・コントロールだ。

 地球のシリンほどの力を持った何者か、つまり、例のラヴロフとかいう男が作り出したシリンがテスト行為としてやっていることなのではないのか?

 その答えにたどり着き、二人は、メルヴィンと朝美に声をかけた。

「メルヴィン、朝美、二人を離して! このままでは二人とも自滅するわ!」

 その言葉を受けて、二人は言い争いをしている町子と輝をわしづかみにして、引き離した。二人とも相手にかなり執着していて、なかなか離れようとしなかったが、相手の顔が見えなくなると落ち着いてきたのか、荒げていた息を整え始めた。

 そして、二つの屋敷に引き離された二人は、二人とも自分の手のひらを見て、自分が今までやっていたことに疑問を持った。

「俺は一体、何をしていたんだ?」

 メルヴィンとともに古いほうの屋敷に避難した輝は、訳の分からないままソファーに座らされた。

「君は、町子と喧嘩をしていた。そう、仕向けられていたんだ」

「仕向けられていた? 誰に?」

 輝の疑問は絶えなかった。とにかく、先程自分が町子とやっていた言い争いを思い出しては、嫌な気分になる、それだけだった。

 メルヴィンは、俯いて頭を抱え始めた輝の肩を抱いた。

「輝、月の箱舟は、まず君たちを引き離そうとしている。僕にはそう思えてならない。しばらく町子とは会わないほうがいい。喧嘩したままでもだ」

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