記憶 3

 それは、吹雪が窓にたたきつける夜のことだった。

 まだけがをして治療中だった、当時十七歳のアースは、ある一団に襲われた。それは、当時アースのいた東レジスタンスという組織に反抗的な勢力の仕業だった。彼らは西レジスタンスと名乗り、差別法制を崩壊に導いた作戦では共闘したが、それが成功した後は執拗に東を潰そうと画策していた。

 彼らは、そのためにアースが必要だった。

 まだ傷が癒え切らないアースは、大量に襲い掛かってくる西側の暗殺者を相手に戦ったが、けがを突かれて気を失ってしまった。シリウスたち仲間が駆けつけた時は時遅く、部屋はめちゃくちゃにされていてアースはどこかへ連れて行かれた後だった。

 アースが目を覚ますと、そこはどこかの部屋の中だった。怪我がひどく痛むのでまともに歩けなかったが、我慢して立ち上がると、そこは四面の部屋で、出入り口のドア以外は窓一つなかった。しばらくすると、白衣を羽織った研究者らしき男たちが何人かやってきてアースをどこかへ連れて行った。無理やり立って歩かされたので傷がどんどん痛くなってきた。

 男たちはアースを、何人もの人間が捕らわれた施設へと連れて行った。そこにいる人はみんな、暁の星のシリンだった。両手に手枷をはめられて壁につながれていて、中には騒がないように猿ぐつわをされている人もいた。

 その中に連れて行かれ、アースは頭に何かのチップを張り付けられた。それは三枚くらいあったが、それが何であるのかはすぐに分かった。

 強制的にシリンとシリンを共鳴させる装置だったのだ。

 当然、この星のシリンと地球のシリンとでは持てる情報の種類が違う。普通に共鳴すればその違いで相手を弾き飛ばす程度が関の山だった。だが、その共鳴装置は違った。

 確実に、地球のシリンの力でこの星のシリンを殺すことができたのだ。

 実験は、成功した。

 その場に捕らわれていた人々がすべて悲鳴や叫び声をあげて死んでいくさまを、アースは目の当たりにした。そして、自らも共鳴の影響を受けて気を失った。

 気が付くと、また、あの部屋の中だった。

 ここからは、逃げるしかない。

 逃げなければ、またあのような実験が繰り返されてたくさんの人間が死ぬ。そうして出ようと思ったが、ドアには外から鍵がかかっていた。

 アースは自分の能力を思い出した。すべての物質に関与できる能力は、ドア自体を空気と同化させてなくしてしまうことも可能だった。

 そうやってなんとかその場を逃げ出したはいいが、外は吹雪で、自分がどこにいるのかさえ分からない。自分がいた東マリンゴート・レジスタンスの拠点になっている教会が、どこにあるのか、分からなかったのだ。

 しかし、あの場所に二度と戻ることは許されない。とにかくどこかに行かなければならない。そう思いながら凍傷になりかける手足の痛みに耐えながら雪の中を歩いていった。

 すると、目の前に突然マルスが現れた。どうやってアースの居場所を突き止めたのかは分からない。マルスはもともと西レジスタンスの人間でこちらに寝返った口だから、もしかして、研究所の場所や目的も把握していたかもしれない。

 アースは、マルスが来るとすぐに彼に寄り掛かり、そのまま気を失ってしまった。次に目を覚ましたのは教会の中で、マルスが見守ってくれていた。彼は、熱に苦しみながらも自分を見るアースの額に触れて、大丈夫だと一言言うとどこかへ行ってしまった。

その数日後、教会から三キロほど離れた町場にある古書店が、燃えた。

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