強さの温度 13
輝たちは、いったいどこにいるのだろう。ここに皆が助けに来てくれているのなら、少し走った先に誰かがいてもおかしくないのに。
町子は、そこら中を走り回りながら仲間の姿を探った。知らない階段をいくつも上り下りし、知らない壁にいくつもぶち当たった。進路を変えては別の道を試す。しかし、どこへ行っても出口や仲間のいる場所には行きつかなかった。町子は、しばらく走ると疲れてしまった。近くの壁に寄り掛かって弾んだ息を整える。
「伯父さんは、どうしているんだろう。輝たちは? みんな、どこにいるの? 会いたいよ」
そう言って、町子は床に座り込んだ。自然と涙が出てくる。心細かった。
しかし、こうしていると自然と心が落ち着いてくるのも確かだった。町子はしばらく休んで立ち上がると、また走り出した。
すると、走り出してから足が痛くなってきたその時に、遠くに何人かの影が現れた。町子は、そちらに向かって全速力で走っていった。おそらく助けに来てくれたシリンたちなのだろう。近づいてみると、確かにそれは町子を助けに来た人たちだった。
そこにいたのは、朝美と三人の天使たちだった。天使はソラートにミシェル先生、それとカリーヌの三人だ。その姿を確認すると、町子は真っ先に朝美の名前を呼びながら走り寄っていった。
すると、振り返った朝美が町子の姿を確認して、叫んだ。
「町子、危ない!」
その声を聞くや否や、町子は人工シリンたちにすぐに囲まれてしまった。町子はその人工シリンたちの不気味な動きに押されてしまった。まだ完成されていない、シリンになり切れなかった人間たちのなれの果て。それが人工シリンだ。町子は、自分に対して、落ち着け、落ちつけと何度も言い聞かせた。
彼らは強いが、町子の能力で彼らから逃れるすべが何かあるはずだ。それを探っていた。しかしうまく頭が回らない。
「町子!」
朝美が叫んで、何本かの矢を撃ってきた。隣でテンが朝美を応援している。その姿を見て、町子はハッとした。今の朝美の攻撃で、町子を囲む敵の一角が崩れた。これはチャンスではないのか。町子は、一瞬迷ったが、それでも持てる力のすべてを振り絞って、地面を蹴った。
すると、町子の体は勢いよく天井まで飛び上がった。町子はその力をコントロールし、何とか天井への衝突を回避させると、そのまま宙を翔けて朝美や天使たちのもとへと降り立った。
「朝美!」
町子は、自分を助けに来てくれた朝美たちの行動が嬉しくて、朝美に勢い良く抱きついてしまった。朝美はよろけながらも町子を受け止め、町子が離れると、もう一度ハグをして、こう言った。
「町子、よく頑張って逃げてきたね。輝たちが探してる。合流するよ」
町子は、朝美のその言葉に、強く頷いた。
その時だった。
ものすごい地響きがして、皆は驚きの声をあげた。そして、その地響きとともに、何者かの大きな影が町子たちを包み込んだ。上から何かが降ってくる。ソラートが、叫んだ。
「散れ!」
皆がそれぞれ、いた場所から放射状に散ると、今までいた場所、つまり今の皆の中央に、何かが降り立った。
「怪物!」
朝美が、悲鳴のような声を上げた。
皆が見上げると、確かにそれは大きな怪物だった。ただ、普通の怪物と違うのは、太った人の形をしていることと、体の皮膚の部分がすべて金属で出来ていることだった。
「こんなの、見たことがないわ」
カリーヌが、怪物を見て、戦慄した。人間の姿をいったん解き、天使の姿に戻ると、今はじっとしている怪物の内部に入り込もうとした。そして、少し顔をゆがめると、三分もしないうちに敵のスキャンを終了した。ラファエルはカリーヌの姿に戻った。
「データに強力なブロックがかけられているわ。ゴーレムってコードネームしか分からなかった」
「ゴーレム」
ソラートが、顎に手を当てて考え込む。
「これが動いたら、どうなる? 朝美の矢は通らないぞ」
「しかし、戦うしかありません。どこかにこれを倒す秘策があるはずです」
ミシェル先生は、そう言うと長い剣を手に取った。
「皆、とりあえず一撃ずつ加えて行きましょう。あの怪物が、動き出さないうちに」
ミシェル先生の言葉とともに、皆は武器を構えた。朝美は弓を、ソラートとカリーヌは槍を、そして、ミシェル先生は長剣を。
そして、いまだ動かないゴーレムに、一斉にとびかかっていった。
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