強さの温度 12
人質は逃げた。ノートパソコンの中の赤い表示はどんどん増えていっている。
いったいこれはどういことなのだ。
目を覚ましたサンドラは、唇をかんだ。パソコン上の赤い丸を数えると、無数にある。自軍がどんどんやられて行っている。これは、あの切り札を出すしかないのか。
切り札、それは、自分たちにもリスクがある巨大な怪物のことだった。その怪物については研究員しか知らないのだが、この要塞に預けられていることは確かだった。それを使って、自分は確実に安全な場所にいれば、簡単に敵をせん滅できるに違いない。その際にはここの研究員や弟も巻きもむだろうが、関係ない。自分が助かれば、また、月の箱舟はいくらでも復活させることができる。そのための犠牲なら、安いものだ。
「ラヴロフ」
同じく目を覚ましたばかりのラヴロフに、声をかける。彼のメガネは割れてはいないがずれていて、無残な格好だった。
「ゴーレムを出しなさい。たしか、この要塞には三体あったはずよ」
「ゴーレムですか! 待ってください。あれはまだ研究段階で、未完成なんですよ」
明らかに慌てるラヴロフを、サンドラは笑った。
「ラヴロフ、あなたは臆病ね。あれが暴れてくれたら、敵は一気に殲滅できる。私たちには傷一つない状態でね」
「私たちに、傷一つない状態?」
「ええ、そうよ。あの怪物を出したら、私たちは二人してヘリコプターで逃げればいいのよ」
笑いながらそう言うサンドラに、ラヴロフは心配そうに聞いてきた。
「研究員たちはどうするんです? ここにたくさんいる研究員たちは、見捨てるのですか?」
すると、サンドラは、こう答えた。
「もちろんよ。研究員など、また雇えばいい。この要塞も、また作ればいい。私の財力があればそれくらいは簡単なことよ。ただ、あなたは失うことができない。すべての研究のデータが入っているその、脳。それが私には必要なのよ」
サンドラのそのいいように、ラヴロフは少し考えこんだ。そして、ひとつ、ため息をつくと、降参したといわんばかりに、両手を上げてサンドラにこう告げた。
「私には何の力もありません。ゴーレムを出しましょう。それですべてが終わるのならば」
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