強さの温度 7

 クリスマスを祝う祝日を何日も過ぎ、年末へのカウントダウンが間近に迫ったその日、アントニオはマルスの要請を受けた。父カルメーロが建造していた空飛ぶ戦艦に手を加え、いくつもの砲台をつけて飛べるように改造したのだ。その戦艦は建造が終わってからすぐに就航し、英国にいた輝たちを乗せて空へ上がっていった。

 大西洋を渡り、中央アメリカを過ぎて太平洋に出る。すると、広い太平洋上に一つ、大きな物体の反応が現れた。太平洋に出てすぐのことだった。

「なにかあるぞ、これは」

 船を操縦をしていたアントニオが、嬉しそうにつぶやく、そして、隣にいたナギに目をやる。

「ナギ先生、何か感じますかね?」

 すると、ナギは顎に手を当てて考え込んだ。

「先ほどから嫌な感じが抜けない。背筋が凍るような寒気も強くなっているんだよ。これは近いな。急げるかい、船長さん」

 そう言われて、アントニオは鼻息を荒くした。船長さん、そう言われて悪い気はしない。アントニオは、そのままレーダーの反応に従って船を進めていった。艦橋には、ナギのほかにマルスと輝、そして、シリウスがいた。

 セインとクチャナは、広い船室に集まっているメンバーに作戦の説明をした。今回はどんな場所が舞台なのか全くわからない。飛行要塞と言う以外は情報がなかった。

 今回の作戦立案者はセインとクチャナだった。彼女らは、二人で話し合って最良の作戦を練りだそうとしていた。

 まず、救助隊。これは少数精鋭を当てた。輝とシリウス、セイン。それとティーナだった。ティーナはあらゆるところから小さなものをたくさん引き出すことができた。アメリカにある銃器の取り扱い店舗から銃弾を盗み出すことなど、お手の物だ。それに彼女は空を飛ぶことができる。足の遅さでシリウスや輝たちの足手まといになることはなかった。

 そして、出てくる敵のうち、人工シリンや改造人間にはなつや朝美、ルフィナを当てることにした。彼女らの能力は生身の人間に向いている。そして、自立回路を持ったロボットには、天使や悪魔のグループが当たることになった。装甲の弱いものや、脳を持っているものにはそれなりのメンバーを、脳を持たない機械には機械に強いメンバーを当てることで、戦線を突破しようという作戦だった。もちろん、外からの支援も怠らない。自立回路を持った機械にも、人工シリンや改造人間にも強いのは、ナギとマルス、そしてクチャナとアイラだ。彼らは随時、ピンチに陥ったメンバーを補佐していく。この船の船長であるアントニオは、作った行程からこの船にかかわっているため、この船の構造や持っているポテンシャルに最も詳しい。攻撃、防御、そしてけが人の救助の三方面から役立ってくれるだろう。

「敵は、全戦力を投じてくるだろう。油断はせず、精いっぱいの力で戦ってほしい。そして、少しでもけがをしたら船に戻り、メリッサやクエナたちの治療を受けること。それを肝に銘じていてくれ」

 作戦の説明が終わると、一同はみな、静かに頷いて応えた。誰も異論を唱える者はいなかった。とにかく、輝たちを導きながら戦う。輝たちの行く道を開けていく。それが彼らの仕事だった。

 セインとクチャナは、説明が終わると、皆の中を抜けて甲板に出た。すると、すぐ近くに大きな要塞が見えた。この船は意外と航行速度が速い。あっという間に飛空要塞までついてしまった。

 二人は、急いで船室へ戻ると、皆に向かってこう叫んだ。

「どこかへ捕まれ! 大砲を撃つぞ!」

 その瞬間、船が大きく揺れて、地鳴りのような大きな音がした。艦橋にいたナギは、その砲弾が要塞の下部にあたるのを見た。

「一角が崩れていく。次は、侵入口を作るぞ」

 そう言って、アントニオは砲台を上に向け、もう一発、砲弾を撃った。すると、船のすぐ近く、要塞の中央部に大きな穴が開いた。

 そして、アントニオは、その穴に向けて戦艦を横付けした。

「さて、これからが本番だ」

 そう言って、冷や汗を垂らしたままアントニオは笑った。まさか、本当にこんなにうまく当たるとは思わなかった。

「先ほどの砲撃で敵に私たちの存在が知れた。入り口には敵が殺到しているだろう。まずは遠距離からの攻撃でけん制したほうがいい。砲撃の後、朝美とミシェル先生を出してもらう。この作戦は後ろにも伝える。いいね、アントニオ」

 ナギがそう言って船室のほうへ去っていくと、アントニオは冷や汗を拭いて、こうつぶやいた。

「マルコ、これは一つ、貸しだぞ。ルフィナを確実に守ってくれよ」

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