強さの温度 6

 英国にある輝たちの家では、何人かの人間がロビーに集まって話していた。メンバーは友子とメルヴィン、夏美と芳江、小松辰紀にネイスの六人だった。あとの人間はすべて出払っていた。皆、先程巨大な飛行艇でやってきたアントニオとマルスに連れられて、空のかなたへ行ってしまったのだ。

 戦う力のないその六人は、取り残されたロビーで芳江の淹れるお茶を飲みながら話し込んでいた。

「ああなっちゃうと、飛行艇も、もはや飛行戦艦よね。砲台までついていたわ」

 友子は、宙を見ながら頬杖をついていた。皆は頷いて、去って言った飛空戦艦を思い出した。そして、乗って言ったメンバーの顔を思い浮かべ、辰紀がため息をついた。

「まさか、なつにあんな能力があったなんて」

 再び、皆が頷く。夏美が辰紀の言葉を受け継いだ。辰紀はその内容に背筋が凍った。

「およそすべての液体を瞬間的に沸騰させて蒸発させる力よね。それを人間に使うとなると、ぞっとするわ。なっちゃん、怒らせたら怖いわよ。夫婦喧嘩には気をつけなきゃね、たっちゃん」

 辰紀は、喉をごくりと言わせて頷いた。

「それに、朝美ちゃんも、弓の腕を買われてメンバー入りしたし、瞳さんは薙刀が使える。ローズさんも今回は特別な薔薇を持ってきてくれて参戦って聞いたわ。気になるところね」

 夏美がそれぞれにお茶を配ると、皆はそれに手を伸ばした。

「ルフィナさんは目を合わせた相手の戦闘意欲を削ぐ。テンとティーナはそれぞれ遠隔地からものを取り寄せることができる。シリウスさんの弾丸が切れても取り寄せることができるから、事実上シリウスさんは無敵。ティーナやテンは姿が見えないから探されないし。みんな、一芸あって羨ましいな」

 お茶を飲みながら、メルヴィンはため息をついた。メリッサも、メリッサの姉も、けがの治療のために飛行船に乗り込んでいる。何か人の役に立てる能力があることが羨ましい、そう思ったのは初めてではないが、痛感したのは初めてだ。

 皆は、自分たちがここにいる以外に何もできないことに苛立っていた。その上でもどかしさも感じていた。自分たちにはどうしようもないし、ついていったところで足手まといになるだけだ。そう感じて、果てしなく落ち込んでいた。

「町子、どうしているんだろう。何もされていなければいいけど」

 友子は、不安をつい口にした。その言葉は夏美の胸に突き刺さったが、夏美は深く深呼吸し、その気持ちを振り払った。

「町子も、兄さんも、きっと無事」

 そう言って、夏美は皆に笑顔を向けた。

「大丈夫。ナギ先生や周りの様子に何もなければ、兄さんは生きて帰ってくる。皆が感じている町子の感触に変化がなければ、町子も無事。信じましょう、みんなを」

 アントニオが改造していた空飛ぶ戦艦に、今回はナギも乗っている。攻撃も医療技術も持っているナギが別動隊ではなく、皆と一緒に戦うのだから、きっと大丈夫だ。

 連れて行かれた二人は、きっと、無事で帰ってくる。

 そう信じて、六人は屋敷のロビーで皆の帰りを待った。

 陽は、とうに暮れかけていた。

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