強さの温度 5
暗く広い部屋の中で、いったい何日の時間が経ったのだろう。ここが地球上のどのあたりなのかは分かるのに、この要塞らしきもののどこに自分がいるのかは分からない。
アースは、だいぶ体力を消耗して、起き上がって壁に寄り掛かっているだけで精いっぱいだった。ここでベッドに身を沈めてしまえば、起き上がれなくなる。起き上がれなくなれば、あとはあの女の思うとおりだ。隙だらけになってしまう。
今まで、何度か輝たちに危機が襲い掛かっていた。そのたびに自分の力が弱まっているのかもしれないと思ったが、そうでもなかった。少なくとも今この瞬間までは、輝やフォーラたちを守っていることができている。
もう、それだけでよかった。
自分が、あの女の手で何をされようが、そんなことはどうでもよかった。あの女に抵抗するために使う体力があるのなら、それを少しでも地上の皆のために使うべきだと思った。そう考えた時、自暴自棄になっていた自分の心が落ち着いてきた。
何回目だろうか、ドアのカギが開く音がする。
外の光が入ってきて、閉じていた目を開けると、目の前にはあの女が立っていた。
腕を組んで、口元に笑いを浮かべている。そして、こちらに寄ってくると、アースの着ていた薄いシャツのボタンを一つ一つ外していった。すべて外してしまうと、アースの顎に触れ、その感触を確かめてからクイっと上にあげて、自分の顔に近づけた。
「きれいな人。この地球上どこを探しても、あなた以上の男はいないはず」
女は、そう言って、アースの胸に触れた。その細い手が上へとずれていき、二の腕を通って手首にあるリングに触れた。そのリングの金属を、女の爪がはじく。
アースは、その屈辱に歯をくいしばって耐えた。女は、その手をアースの首にやり、その首輪から延びる鎖を握りしめた。女は、ジャラジャラと鎖を鳴らすと、おもちゃを与えられた子供のように笑った。
「あの小娘、あなたのことを話したら、泣いたわ! 子供みたいに叫んでね!」
何度目だろう。女は鎖を引っ張って自分のほうにアースを寄せてくる。自分からくることはできないのだろうか。半ば呆れていると、女は笑うのをやめた。
町子は、大丈夫だろうか。自分のことを心配しているだろうが、無茶はしていないだろうか。
「大切な姪御さんなんでしょ? 彼女を助けたかったら、早いうちに私のものになることね。悪いようには決してしないわ」
そう言って高笑いをした。
その時だった。
この飛空要塞のどこかで、小さな爆発音がした。女は慌てて部屋を出た。カギを部下に託すと、部下が厳重に部屋にカギをかけた。
女は、焦った。
この要塞で爆発など、あるはずがない。敵勢力の高橋輝たちも、クロードが始末したはずだ。もし生きていたとしても、空を飛ぶ手段のない輝たちが、ここまで来られるはずがない。
しかし、空を飛ぶ手段があったら?
女は、サンドラは、焦る頭で何かを思い出しかけていた。空を飛ぶ手段、どこかにあったはず。どこだっただろう。
焦りながら、サンドラは自室に戻ることにした。
戻ると、自室の前には研究員のリーダーであるラヴロフと、弟のイーゴルが待っていた。
「少し揺れましたね」
焦るサンドラにそう告げて、ラヴロフは開いた部屋に入っていった。サンドラは、一緒に入ってくるイーゴルが連れている町子を一緒に部屋に入れ、自分の机の上のノートパソコンを開いた。すると、ノートパソコンの画面にはこの要塞の見取り図が出てきて、何層にもなっている要塞の、迷路のような地図をいくつも出しては消した。その中で一か所だけ、赤く点滅している場所があった。そこが、損傷個所だった。
「イーゴル、その娘に猿轡をなさい。騒がれたらうるさいだけだわ」
そう吐き捨てて、サンドラはノートパソコンを開いたまま立ち上がった。
「ネズミが侵入したみたいね。ネズミ捕りを出動させなさい。相手はものの数ではないはず。でも、全力で排除しなければ、カルメーロの二の舞よ」
サンドラは、そこまで言ってハッとした。
カルメーロ。
あの男は、飛行船を持っていると言っていた。
もし、その話が本当なら?
そして、殺し損ねたカルメーロの息子・アントニオがそれを改造していたら?
サンドラは、戦慄した。
彼らが、来る。ここに、確実に。
サンドラがようやく手に入れたものを壊しに、彼らがやってくる。
サンドラは、恐怖にかられた。そして、気が付くと、ラヴロフとイーゴルに向かって、こう命令を出していた。
「侵入者を全力で叩きなさい! 一人残さず殲滅しなさい! イーゴル、その小娘を人質に使ってもいい。あなたの好きにすればいいわ。犯しながらじわじわと奴らを追い詰めるといい。ラヴロフ、あなたは今あるだけのシリン封じを全て使って、奴らの動きを止めるのよ。そう、ここにあるものはすべて私のもの、私の家、そして、私のすべて! 誰にも壊させない、誰にも渡さないわ!」
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