真夜中のラジオ 10
家の中に入っていった輝と町子は、町子が感じ取る命の気配を頼りに家の中を進んでいった。しばらくすると女の子のすすり泣く声が聞こえてきたので、そちらに向かった。すると、そこが家のかなり奥のほうで、ごうごうと音を立てて燃える炎に近い場所であることが分かった。二人はこの家に入る際に何も準備はしてきていなかった。少女の姿が見えたと思うと、煙に道を阻まれて前に進めなくなっていた。
「どうしよう。あんなに近いのに」
少女は、まだ小学生の低学年くらいで、今どきの子にしては珍しく、着物を着てはんてんを羽織っていた。ひどく泣いているので、声はよく聞こえるのだが、それも煙のせいで激しい咳に変わってしまっていた。
「どうしよう、輝。これじゃあ」
そう言って、町子もまたせき込んだ。少し煙を吸ってしまっていた。ここにいれば少女とともに共倒れになってしまう。
ここは逃げるしかないのか。他に選択肢はないのか。
輝が迷っていると、町子が煙を吸って倒れた。しかし、熱い地面にその体は倒れこむことはなかった。誰かが、町子の体を抱え上げていた。
その人は、科学者や医者なのだろうか、白衣を羽織っていた。町子の体を抱えて立ち上がると、炎の前に手をかざした。すると、炎が一時的に収まり、輝たちと少女の間に道を作った。
「テン、こっちだ」
男性の声だった。泣いていた少女はその声に気が付くと、すぐに泣くのをやめて、男性に駆け寄っていった。そして、炎の道がふさがった瞬間、その少女と男性、そして、輝と町子はその場から消えていた。
不思議なことが起こった。輝は、今自分がいる場所と状況を確認した。すると、内山牧師の家には消防隊が来ていて、放水による消火が始まっていた。輝たちは先ほどまでいた玄関の前の道に戻っていて、気を失っている町子の隣には小さな女の子がいた。例の、着物にはんてんを羽織った女の子だ。
そのさらに隣には、先程のアフリカ系移民の男性がいた。町の人たちはみな、正気を取り戻していた。先程助けてくれた男性はいなかった。
「ウリエルさま!」
着物の少女が、男性をそう呼んで抱き着いていった。
「その呼び方はやめなさい。この姿での私は、ソラートだ。それにしても、見るものが感じた気配はお前だったんだな、座敷童よ」
座敷童と呼ばれた少女は、泣きながら頷いた。
「大きなお父様が来て、助けてくれたの」
「大きなお父様? ウリエル? 座敷童?」
少女や、ソラートと名乗ったウリエルを見て、輝は混乱していた。何が何なのかさっぱりわからない。
「森高はこんなになっているし、だれか説明してくれよ!」
すると、ソラートと名乗ったウリエルは、すまない、と一言言って、輝の肩に手を当てた。
「この状況が落ち着いたら、説明する。今、君に何を言っても信じてはもらえないだろう。それだけ君は興奮している。見るものが目を覚ますまで待ってもらえないだろうか」
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