真夜中のラジオ 9

 炎は、内山家の裏手から上がっていた。男性が見つけた時は煙さえ見えなかったのに、今はひどく焦げた臭いにおいとともに、大きな炎が上がっていた。

「まずい。見るものよ、中には人がいるのだろう?」

 町子は頷いた。

「うん。ひどく小さな気配だけど、大きな命。これはたぶん」

 見るもの、と呼ばれた町子が言い終わらないうちに、内山家の一角が崩れ始めていた。激しい轟音とともに燃えた部分が崩れ落ちていく。そこにいた誰もが武器を手に取ったまま動かない。救急車や消防車を呼ぼうというものは誰一人いなかった。

「見るものよ、今なら助かるかもしれない。ここは私に任せて家の中に急ぎなさい」

 崩れかけた家を見て、男性が言った。すると、町子は輝の手を強く握った。

「輝君、あなたサッカー部よね。そのキック力で、ドアを開けてくれる?」

 そう言って、町子は輝を内山家の扉の前まで走って連れて行った。輝は焦ってこう返した。町子の言っていることはむちゃくちゃだ。そして、輝にはそんなキック力はない。

 扉を前にして、輝は町子の言ったこととは逆のことをした。上半身で、強く何度もドアにぶつかっていった。ドアが開いたころには、強い熱気が中から勢いよく出てきた。これに炎がかぶさればとんでもないことになっていただろう。二人はそれを想像しながら、急いで家の中に入った。

 一方、外では、家の中に入った二人を守るようにして、襲い掛かってくる人間たちと男性が対峙していた。武器を持った人間たちは、一斉に男性に襲い掛かってきた。松明も、バットも、包丁も、一気に男性のもとに振り下ろされた。

 しかし、男性は両手を広げ、襲ってくる人間のうち二人の人間の手を掴んだ。そして、なぜか身動きが取れなくなったその二人をそのままに、こういった。

「人間たちよ、自らを取り戻し、誘惑を捨てよ!」

 すると、男性の体から強烈な光が放たれた。それは近所一帯を覆いつくし、そこにいる人間すべての力を奪い去った。武器を持っているものはそれを捨て、何かの役割でここにいたものすべてがその光に触れて次々に倒れていった。

 光が収まると、そこには翼が生えて、長い布を体に巻き付けた格好の人間が立っていた。アフリカ系移民の男性のいたそこには、白い肌の、天使の姿をした人間が立っていたのだ。

 天使のような姿をした、男性とも女性とも言えない、その中性的な姿をしたものは、右手を天に振り上げたあと、その手を下ろして倒れている人間にかざした。

「我が名はウリエル。熾天使の一にして大天使である。ここにいるすべての人間に告ぐ。即座に、自らの本来の役割に戻り、この一件を直ちに鎮めよ」

 その声に、すべての人間が目を覚まして、目の前の惨状を見た。誰かが焦って消防車を呼び、救急車も手配された。その頃には、先程の天使の姿はなく、そこにはアフリカ系移民の男性の姿があった。

「見るもの、戻すものに、我が主とこの星の加護を」

 家の中に入っていった二人を見つめるかのように、男性はつぶやいた。

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