秋風

 秋になって、わたしは落ち葉となって、目印の木のこずえを離れました。


 落ち葉のわたしは、風に乗り、空高く舞い上がりました。

 まるで、ずっと、あこがれていた鳥になったようでした。


 でも、わたしは、目印の木から遠くには行きたくありませんでした。

 できることならば、落ち葉になっても、目印の木の見える道路のそばに、ずっといたかったのです。

 だって、わたしは、ここで、わたしを迎えに来る車を待っていなければならないのですから。  


 だから、わたしは、風にたのみました。

 わたしを、ここから、遠くに運んでいかないでください。いつか来る迎えの車のために、わたしは、ここで待っていなければならないのです、と。


 だけれど、風は、言いました。

「 なんてガンコなわからずやなんだ。迎えの車なんか、どれだけ待っていたって来やしないよ。万に一つ、おまえの待つ車が来たとしても、前の姿から、こんなに変わり果てたおまえなんか、だれが見たって、わかりはしないのに」


 風も、ナナフシと同じことを言うんだと、わたしは、くやしくなりました。

 確かに、わたしの姿は、一年前の夏とは、すっかり変わってしまいました。

 でも、わたしは、迎えの車が来ることをあきらめることはできませんでした。


 だから、わたしは、くやしいのをがまんして、風に、もう一度たのみました。


 でも、風は、わたしのたのみに耳を貸そうともせず、わたしを山から遠く遠く離れた街にまで、運んで行ってしまいました。

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