捨て猫

 風がわたしを連れて行ったのは、マンションのわきのゴミ置き場でした。


 ゴミ置き場の段ボール箱を、一羽のカラスがしきりに突ついています。

 カラスが突つくたび、その箱の中から、ミャァミャァと子猫の鳴き声がしました。

 誰かが、子猫を段ボール箱に閉じ込めて、捨てたのです。

 このままだと、箱がこわれて、カラスに、子猫がおそわれてしまいます。

 おなかのすいたカラスにとっては、生ゴミと同じように、子猫もエサと同じなのです。


 子猫を助けたくても、落ち葉のわたしでは、どうすることもできません。小犬だった時のわたしでさえ、山の中で、あのカラスを追い払うことができなかったのですから。わたしは、ただ、やきもきと、見ているしかありませんでした。


 カラスのくちばしが箱を突きやぶり、子猫が「ミャアー!」と大きな悲鳴をあげた時、小学生の男の子がふたり、角を曲がってやってきました。

 男の子たちは、子猫の悲鳴を聞きつけて箱にかけよってきました。

 カラスは、おどろいて、飛び立って行きました。

 わたしは、ホッとしました。そして、聞こえないとわかっていても、男の子たちにお礼を言わずにはいられませんでした。


 男の子たちは、すぐに、その段ボール箱を開けました。

 箱の中には、キャットフードが散らばり、その真ん中に黒白の子猫が、ちょこんと座っていました。 

 男の子たちは、箱をのぞきこみながら、言いました。


「わぁ、ちいさい猫! かわいい!」


「こんなにかわいいのに、捨てられちゃったのかな?」


「そうだよ、きっと。この子猫、どうしよう」


「ぼくんちのマンション、ペット、飼えないんだよ。下の階の二年生が、やっぱり、これくらいの猫、拾ってきたんだけど、ママに、もとのところに捨ててきなさいって、叱られているの、見たばっかりなんだ」


「ぼくんとこはペットだいじょうぶだけど、飼っていいのは2頭までなんだ。もう、家にはマルチーズのモモとルルがいるし」


「ぼくたちで、ナイショで飼おうか?エサは箱の中にこんなにあるし。なくなったら、給食、残して、あげればいいよ」


「だけど、どこで、飼うのさ」


「……ここ? この箱のなか?」


「ゴミの収集日になったら、きっと、ゴミといっしょに収集車に持っていかれちゃうよ。さもなきゃ、さっきのカラスがもどってきて、おそわれちゃう」


「じゃ、どうするのさ?」


「子猫、飼えそうな人、さがそうよ。明日、学校で、みんなにきいてみよう」


「うん、そうだね。塾でも、きいてみるよ」


 男の子たちは段ボール箱をしめ、ゴミと間違えられないように、植え込みの下に持っていきました。 ここなら、植え込みの枝がカラスからも、守ってくれると男の子たちは考えのです。


「おまえ、おとなしくしておいで。飼ってくれる人見つけて、また、来るから」


 そう言ってから、男の子たちは走って行きました。子猫は箱の中でミーミーと鳴き続けていました。


 次の日、二人の男の子たちが友だちを連れて来てみると、植え込みの段ボール箱はなくなっていて、子猫のすがたも、どこにもありませんでした。

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