目印の木

 道路から少し入ったところに、とても、大きな木がありました。


 この木は、大きいだけでなく、変わった形をしていましたから、道路からもよく見え、かっこうの目印になりました。

 わたしは、おとうさんが、わたしをむかえに来る時の目印になるように、ここを選んだのだと思いました。


 そして、夜になりました。

 おとうさんの車は、戻ってはきませんでした。

 朝になり、昼になり、夜になりました。

 それでも、おとうさんの車は、やってきませんでした。


 その次の日は、雨が降りました。

 わたしの大嫌いな雷も、なりました。こんな時、おとうさんとおかあさんが、そばにいてくれたらなと思いました。でも、おとうさんも、おかあさんも、わたしのそばにはいません。

 わたしは、雷がこわくてたまらなくて、草むらに隠れました。

 しばらくすると、雷はどこかに行ってしまい、お日さまが出てきました。

 わたしは、ずぶぬれでした。

 今までなら、おかあさんが乾いたタオルで体をふいてくれたけれど、おかあさんは、今はわたしのそばにはいません。その代わり、お日さまが、わたしの体を乾かしてくれました。お日さまの光はギラギラして、おかあさんのタオルのように、気持ちよくはありませんでした。

 わたしは、気分がとても悪くなりました。

 のどがかわいてたまらなくなって、わたしは、水たまりの水をゴクゴクと飲みました。

 おなかも、とても、すいていました。

 でも、ここには、いつも食べていたドックフードなんて、どこを探したってありません。わたしは、地面をはっていた虫を食べました。それから、草も食べました。

 でも、すぐに気持ち悪くなって、みんな吐いてしまいました。

 お日さまが暑くてたまらないのに、わたしの体は、ガクガクと震えていました。


 道路に、車が通る音がします。

 草むらからのぞくと、おとうさんの車に似ていました。


「おとうさんだ!おとうさんがむかえにきてくれたんだ!」


 わたしは、急いで、草むらから出ました。


 でも、車は、おとうさんの車ではありませんでした。


 わたしは、がっかりして、その場にうずくまってしまいました。お日さまはあいかわらず、ギラギラして、わたしは何が何だか、わからなくなってしまいました。


 気がつくと、また、雨がザーザー降っていました。

 辺りは、真っ暗でした。

 あんなに暑かったのがウソのようです。

 わたしは、寒くてたまらなくなって、雨だけでも避けようと、目印の木のところまで、って行きました。

 木は、すぐそこに見えているのに、とても、遠くに思えました。

 やっと、目印の木の大きな枝の下にたどり着くと、少しは雨除けになりました。

 でも、体のふるえは止まりません。

 わたしは、ものすごく気持ちが悪くなって、何度も吐きました。

 でも、吐いても、吐いても、出てくるのは、泡だけでした。


 わたしは、また、気が遠くなりました。

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