■第15話 ファーストコンタクト
「本大会での3on3の詳細ですが、まず試合前に先鋒、中堅、大将の順番を決めていただきます。試合はまず先鋒同士の対戦、そしてその勝者はそのまま次の試合へ、負けた側は次の選手に代わって対戦していく勝ち抜き方式となります。最終的に大将を倒したチームが勝利、そしてそのチーム戦をトーナメント形式で行っていきます」
そういえばゲーム大会の話だったな。楓や昔の美奈やサクラちゃんのことですっかり忘れてたぜ……きっと楓も出場するんだろうな。
待てよ? 楓のあの強さだったら優勝も可能ではないだろうか。ということは優勝を俺に自慢したいのかもしれない。
読めたぞ……だから楓は今日ここに俺を呼んだのか!
などと、俺は約束の内容を勝手に解釈しながらサクラちゃんの説明に聞き入る。
「3on3は基本的に誰と組んでいただいても構いません。一人や二人でご来店の方も、出場されたい方はこちらで即興のチーム作成も行いますので申し出て下さい」
3on3だから一人や二人だと本来出場は出来ないが、その人達を集めてチームを作るのか。これなら俺も出場可能――ってやっぱダメだな。俺じゃ足手まといになってチームになった人に迷惑をかけるだけだろうし。
それにしても3人チームのトーナメント戦か。普通格闘ゲームっていうのは1対1、周りは皆敵同士ってイメージがあるけど、こういうやり方なら無作為に選ばれたチームでも友に闘うことで友情が芽生えるかもしれない。
格闘ゲームで昨今これだけ人気があるっていうのも、こういう人の繋がりとかから来ているのかも知れないな。
「それではチームの登録申請、及びチーム抽選登録申請を行います。その後トーナメントの作成を行いますので、大会参加希望者の方はこちらへお越し下さい。以上、説明を終わります」
サクラちゃんによる説明が終わり、イベントスペースは一旦解散となった。サクラちゃんと店員さんがイベントスペースに残って大会参加者の登録受付を行い、参加希望者達が受付へと並びはじめる。
イベントに集中した空気が途切れたのを見計らってか、一旦自由になった楓がこちらへとやってきた。おいおい、お前主役の一人なのにこっち来ていいのかよ……
「ちょっとお兄ちゃん! なんで何回も連絡したのに無視するの!?」
やってくるなり、コスプレしたままで普段通りに話しかけてくる楓。ただでさえイベントの主役なのに、大声でお兄ちゃんとか言いながら怒りだすのは勘弁してほしい。ほら、周りがみんな見てるじゃないか。
「楓、ちょっとこっちへ」
「え? ちょっと!」
小声で囁き、楓の手を引っ張ってイベントスペースから離れた。イベントの最中に主役と一般人がギャラリーに混じって堂々と話してたらさすがにおかしいだろ……
「ちょっと痛いって!」
ちょっと強く引っ張りすぎたかもしれない。俺は言われてすぐ手を離した。
「あ、わりぃ」
とりあえず人気のなさそうな場所までやってきた。言いたいことは山ほどあるが、まずは兄らしくビシッと言っておかなければなるまい。
「楓頼む! サクラちゃんからサインをもらってくれぇ!」
「えー? この状況でまず言うことがそれなのー?」
何を言うか。このチャンスを逃したら次がいつになるかなんて分からないじゃないか!俺は二人きりになるなり、楓の肩を掴んで言い寄った。
「そんなこと今はどうでも――」
「頼む! 頼むよ楓!」
俺の必死の懇願などどうでもいいかのように話題をそらそうとしてくるが、今回ばかりはそうはいかない。何せ既に金庫の中身まで見られているんだし、見栄も張らずに欲望のまま突っ走るぞ俺は!
「分かった! 分かったからもう」
「サンキュー楓!」
楓への説教などとうに忘れ、有頂天となって喜ぶ俺。楓から見れば気持ち悪いことこの上ないだろうが、トップシークレットまでバレている俺にはもう失うものなどなかった。
「あーもう。それはそうと、何か言うことあるでしょ?」
言うこと? 何だっけ?
サクラちゃんのことで頭がいっぱいとなり何も考えられなくなっていた俺は、とりあえず楓がイベントの主役をやっていたことをほめることにした。言わなきゃいけないことはこれではない気がするが、実際思ったのも事実ではあるし言ってみる。
「そういえばお前凄いじゃないか! いつの間にこんな舞台に立つような有名人になったんだよ!」
「いやー、昔お兄ちゃんにゲームでとことん負けたことが悔しくてさ。それでこのジョイパラでこそこそ練習してたらいつの間にかね、なはは」
何気に楓自身も今の境遇が嬉しいのか、少しニヤつきながら話し出す。
「このゲームって、カードを使うと戦績とかランクポイントっていうのが残るんだけど、それであたし今、この店のランキングTOP10入りしてるんだよ!」
「TOP10!? このゲーセン、こんなに人がいるのにお前そんな強いの!?」
「うん。何気にね! ブイ!」
こうやって笑顔でVサインをしてくる楓を見ていると、俺の前では本当に普通の女の子なんだと思えてくる。コスプレをして、その上イベントの主役までやっていてすごい人物であるはずなのに、俺の前でだけこんな笑顔を見せてくれることに俺は何とも言えない優越感を覚えた。
そんなに強いくせに、プレイ未経験の俺に罰付きでゲームを挑んできたのには卑怯と思うところもあるが、さすがにここまで強くて有名になっているとなると、卑怯と思う以上に感嘆するよほんと。
「ってそうじゃなくて! このコスプレどうよお兄ちゃん。お兄ちゃんにとってはサクラちゃんほどじゃないだろうけど、あたしだって結構いい感じでしょ?」
まるで俺をコスプレ好きのように扱ってくるのはいかがなものか。そりゃ好きかもしれないけどさ……
「ああ。最初みた時はびっくりしたよ」
「えー、それだけ?」
「可愛すぎてギャラリーの中に楓をいやらしい目で見てる奴がいた。もう心配でしょうがなかったよ」
「そ、そうかな? えへへ……」
俺の心配など聞こえていないかのように、可愛いという言葉に照れながら嬉しそうな顔をする楓。今のセリフだと、俺が可愛いと言ったわけではないんだが……
まあ、可愛いと思ってるけどな! おっと何度も言うが俺はシスコンじゃないからな! 違うからな!
というか、優勝を見せるというよりコスプレを見せることが約束の目的だったのだろうか? なんかそんな感じもしてきた。
「それで? 今日の約束っていうのは、結局何だったんだ?」
「え? まだ分かってないの?」
「うーん。優勝の自慢、それかコスプレのお披露目って思ったけど」
楓は少し悩んだような顔でイベントスペースへと振り返る。
「あたしもこの大会に出るつもりなんだけどさ。3on3のチームメンバーがサクラちゃんしかいないんだ」
仮にも主役のイベントチームなのに、いいのかそれで……
「それで?」
「お兄ちゃんはチームの数合わせだね」
「数合わせって――楓と全く渡り合うことすら出来なかった俺が?」
「お兄ちゃんには回ってこないように、あたしが全員なぎ倒すから安心して! だからお願い!」
今までの態度とは一転し、急に真面目になって頼みこんでくる楓。本当にチームメンバーに困っているということが、その真剣さからひしひしと伝わってくる。
そんなにお願いしなくても、約束だし協力するけどさ。
それにしても楓は自分の腕に自信ありすぎだろ。呆れるのを通り越してすげーとしか言えねぇよもう。
「いいよ、それくらい」
「ほんと!?」
「ああ、元々約束だったからな」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
本当に俺が了承するか心配だったのだろう。俺がチームに入ると言った時の楓は、紛れもなく嬉しそうな表情だった。
「それに、初めてサクラちゃんともお近づきになれるわけだしな! どっちかっていうと役得ってもんだぜ」
一緒のチームになるってことは、本当に仲良くなるチャンスがあるかもしれない。そう考えれば逆に、俺からチームメンバーにしてくれって頼みたいくらいだ。
「……はーっ」
おもむろにげんなりとして溜め息をついてきた。何だろう、俺が何かしたのだろうか。
「いや、分かってたけどね。まあいいや」
楓が一人で何かを自己解決したようだが、溜め息の理由が気になってしょうがない。
「いやいやなんだよ。一人で納得してないで、俺にも分かるように教えてくれよ!」
「気になる? きっとお兄ちゃん驚いて腰抜かすかもよ?」
「ああ、構わん。やれるものならやってみろ」
楓がこのイベントの主役だったってことで十分驚きはした。俺の大ファンのサクラちゃんがいたことにも驚かされた。
けれどそんな前振りされて、そんじょそこらの内容で腰を抜かす俺ではないわ!
「分かった。じゃあ、ちょっと待っててね」
そう言って楓はイベントスペースへと戻っていった。戻っていく際の楓が、してやったりな表情をしていたのが気にかかる。
しかし、そう何度も何度も楓の思惑通りになると思ったら大間違いだということを教えてやるぜ。
「いったい何だって言うんだ。あ、そういえば連絡無視とか言ってたけど――」
ふと思い出した連絡無視の話。何度も連絡したというのに音にも振動にも気付かなかったということは、やはりスマートフォンはどこかに落としてしまった可能性が高い。
「まじかよ……どこで落としたんだろう」
このご時世、個人情報の詰まった端末を拾って悪事を働くのは簡単であり心配だ。しかし今さら大会を無視して探しに戻る訳にもいかないし、あー、すごくもどかしい!
「お兄ちゃんお待たせ!」
一人で唸っているところに楓が戻ってきた。というか――
その楓の後ろには、何故かサクラちゃんが付いてきていた。
「紹介するね。ジョイパラ専属コスプレイヤーのサクラちゃん!」
やばい! いきなりこんなタイミングでサクラちゃんと初顔合わせイベントだなんて、まだ心の準備が――
「サクラです。今日の大会、よろしくお願いしますね」
「は、はいィ!」
心の準備に間に合わなかった俺は、裏返った間抜けな声でサクラちゃんとのファーストコンタクトを済ませてしまったのであった。
あー……何してんだ俺のアホー!
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