■第4話 妹からの挑戦状
俺の家は一軒家で、俺と楓の二人暮らし。
両親は健在だが、楓が一人暮らしを望んだ結果、楓にだだ甘な両親が家から少し離れた場所にアパートを借りて暮らしている。ちなみに兄もいるのだが、兄も両親と一緒にアパートに住んでいる。
俺はと言うと、学校やバイト先が変わるのは嫌だと両親や楓に伝えた結果、楓が俺と二人暮らしになるくらいならまあいいかと言ったことで、この家で暮らし続けることを許されている。
聞いてもらえば分かるように、楓は我が強く家の中でも何故か権力が強い。自分が正しい、自分がしたいと思ったことは必ず声に出し、実行し、現実にしてしまう強い女の子だ。
ただ強すぎるし頭が回るタイプなので、怒らせるといつも楓には頭が上がらなくなる。可愛い見た目とは裏腹に、恐い内面を持つ妹なのだ。
「怒っていてもさすがは楓の料理だ。美味い」
楓の作ってくれた食事を完食し、そして後片付けと風呂を済ませた俺は、恐る恐る地獄の門を叩く。
「入っていいよー」
妹の部屋をノックし入室の許可を得た俺は、拷問を覚悟し妹の部屋に入った。地獄とは程遠いファンシーな部屋だが、ベッドの上には腕を組んで座っている地獄の使者が俺を待ち受けていた。
「そこに座って」
「はい……」
「ちょっとは反省した? お兄ちゃん」
「はい……」
「何を反省したの?」
「何をって……妹に隠れていやらしい本etc――を持っていたことです」
妹相手にこんなこと言うのは恥ずかしいすぎる! もういっそ殺してくれ……
「あたしが怒ってるのはそんなことじゃないよ。それに男の人ならそういうの仕方ないと思う、ってさっきも言ったじゃん」
「じゃあ何で楓は怒って――」
「……はぁ」
楓は溜め息をつき、怒っているのとはまた違う真顔となって話し出す。
「お兄ちゃんは美奈ちゃんが好きなんでしょ? 美奈ちゃんはすぐ近くにいるっていうのに全然進展する気配もないしさ、そのくせこんなものを持ってて。さらにこれを美奈ちゃんにまで見られて軽蔑までされちゃって、ほんと情けないったらありゃしない」
薄い本を指差さされながら妹にここまで言われると大分惨めでショックだが、ごもっともすぎて何も言い返せない。仰る通りです楓様……ってそういえば。
「ところで、何で俺が美奈を好きだと?」
「そんなの美奈ちゃんと一緒にいるお兄ちゃんを見てればバレバレに決まってんじゃん! おもいっきり顔に出てるから一回動画に撮ってみせてあげたいくらい! それにあたしに対する態度と明らかに違うし……」
そんなに好き好きオーラが人前でも溢れてしまっていたとはこの上なく恥ずかしい! よくアニメや漫画とかで、主人公やヒロインがお互いに対してウブっぽい対応でなかなか進展しないのにはいつもイライラさせられていたが、どうやら俺もその主人公達を悪く言えるような立場ではないようだ。あと楓が何か小声でブツブツ言っているが全然聞こえない。
「それで? 実際美奈ちゃんのことどう思ってるの?」
いきなり直球的な質問が投げかけられた。誤魔化したい気持ちでいっぱいではあるが、この雰囲気は誤魔化していいところではないと、俺の脳が警鐘を鳴らしている。
「確かに美奈は大事な幼馴染だし、その……可愛いと思う。でも好きかどうかっていきなり言われても分からない。誤魔化しているわけじゃない。けれど付き合いが長い分、恋心よりも大事な人ってイメージが強いんだと思う」
言ってて恥ずかしいセリフではあるけれども、正直な気持ちを言葉にしたつもりだ。
「ふーん。じゃあ例えば美奈ちゃんに彼氏とか出来たらお兄ちゃんはどうするわけ?」
今度は意味の分からない質問が投げかけられる。だが楓はずっと真面目な顔で聞いてきている為、この状況では答えないわけにもいかない。
「どうもこうも、仮にそんな状況になったとしても、俺にどうこうする権利なんかないだろ」
「……はあ」
徐に溜め息をつく楓。あたかもこのような回答をすると分かっていたかのように、やっぱりかという顔で俺を見下す。
「それじゃあ、あたしに彼氏が出来たらどうする?」
「何!? 楓お前、彼氏いるのか!?」
楓の突然の彼氏話に驚きを隠せず、興奮気味に楓を追求する。
「い、いるわけないじゃん! お兄ちゃん落ち着いて! 仮、仮の話だってば」
「そ、そうだよな。すまん、楓」
ほっ……よかった。あまりの衝撃に我を忘れるところだった。
「それで、どうなの?」
「そんなの俺の許可なしに認められるわけないだろ。当然じゃないか」
俺の可愛い妹にいきなり彼氏だなんて許せるわけがない。そんなのホイホイ認めてる兄がいるって言うのなら、そいつは兄失格だ。
「どうしてそれを美奈ちゃんの話の時に言えないの! あーもう、お兄ちゃんも美奈ちゃんも一歩引いた位置から全然動こうとしないし、それを傍で見させられてるあたしの気持ちにもなってよ!」
楓が壁の方を向いて何かブツブツしゃべっている。俺による彼氏査定がそんなに嫌なのだろうか。
「やっぱりアレしかない、か」
何か一人で納得している楓。意味不明な質問をしてきたり、独り言を喋ったり、今日の楓はどこかおかしい気がする。
「楓、そんなに俺が彼氏についてどうこうするのが嫌なのか?」
「そんなのどうでもいい!」
どうでもいいって……じゃあ何で聞いてきたんだよ……
「じゃあ美奈についてのことか? 今日の失態の分は明日――」
「何にせよ! そこであたしは考えました!」
俺の言葉を遮り、楓が突然拳を握ってベッドから立ち上がった。立ち上がった風圧でスカートがめくれ、目の前に現れた水玉模様を瞬時に脳内にインプットする。
「お兄ちゃん、あたしとゲームで勝負しよ!」
妹からのいきなりすぎる意味不明発言。そしてこの言葉から俺達の新しい物語は始まったのである。
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