■第2話 幼馴染との関係
俺と店長はこの店でも随一の変態コンビと罵られている。おかげで周りの女スタッフはもちろん、幼馴染で昔から仲のいい美奈でさえ、店では距離を置くことが多くなってしまっている。
一方、美奈はこのDVDショップではアイドル的存在で、美奈目当てで来店する客がいるほどだ。仕事モードで俺に相対するのとは打って変わり、客にはものすごく愛想が良く人当たりもいい。男性目線から見た場合、幼馴染の俺のような奴でなければ話すことすら難しい、高嶺の花のような女性と感じることだろう。
俺と比べるまでもなく天と地ほどに人望に差がある為、幼馴染で仲が良いという点で、よく他のスタッフからも凸凹コンビとからかわれることが多い。もちろん男だろうと関係なく、俺が凹側だ。
「おう、そこの高校生ども。今日はもう上がっていいぞー」
店のピークタイムが過ぎ、店長からバイト終了の指示が下る。結局美奈に軽蔑されたまま、今日も一日の仕事が終わった。
「本日も一日お疲れ様でしたー」
バックヤードにてスタッフ同士の終礼を行った後、エプロンをロッカーに片付け帰り支度をする。借りた薄い本もしっかり鞄の中にしまって帰り支度を済ませた俺は、何とか今日の挽回を図るべく美奈に話しかける。
「美奈、さっきはすまなかった。一緒に帰ろうぜ」
「……ええ」
美奈はこちらも見ずに機嫌の悪そうな声で返事をする。美奈はまだ帰り支度中なので待っていたのだが、俺と美奈の会話を目にした周りのスタッフ達がこそこそ笑っていたりして、バックヤードの雰囲気が何とも落ち着かない。
そんな中、適当にスマートフォンをいじりながら待っていると、いつの間にか美奈の姿が見当たらない。一緒に帰ることについて承諾してくれたというのに、待っていた俺を呼びかけもせず、そのまま店を出てしまったようだ。ふと入り口に顔を向けると、店の外に美奈の姿を見つけた。
「待ってくれよ!」
既に帰路についている美奈の背中を、俺は慌てて追いかけた。何とか追いつき、美奈の前に出て息を整える。
「一緒に帰ろうって約束したのに、先に行くなんてちょっとひどくないか?」
「――から」
「え?」
ぼそっと何か言ったようだが、声が小さくて聞き取れなかった為もう一度聞き返す。
「柊も、ああいう本を見て女の子をいやらしい目で見てるんだと思ったから」
真面目なトーンで話す美奈を前に、俺は何も言えなくなった。
「いくら幼馴染といっても、私は女で柊は男。ちょっとは怖くなったりもするわ」
言われてみれば当然だ。女の子からして見た場合、堂々と目の前でエロ本持ってる男子を見れば、自分の貞操の危機、いや人によっては身の危険まで感じる人もいるだろう。
「私だって柊を信じてないわけじゃないわ。でも店長といやらしそうな話をしているのを聞くと、どうしても不安な気持ちになってしまうの」
悲しそうな顔で話す美奈。自分が調子に乗ってしまったせいでこのような顔をさせてしまっていることに、ひどく心が痛んだ。
ただ赤の他人と思われているのであれば、きっとこのようなことは言ってもらえないと思うし、ただ軽蔑されて終わりだと思う。悲しそうな顔をするのも、まだ俺のことをまともな幼馴染として見てくれているからだと信じたい。
「今日はいやなところ見せちまったな。本当にすまない。完全に俺のデリカシーが足りなかったと思う」
「…………」
美奈は何も言わない。それでも俺は言葉を続ける。
「信じてもらえるかは分からないが、少なくとも美奈をいやらしい目でみようとは思っていない。美奈は大事な幼馴染で親友だし、いなくなられたらその……寂しいと思う」
「……うん」
そのまま二人で歩き出すも、何を言っていいかも分からず二人の間に沈黙が流れる。言いたいことがあるはずなのに、言葉に出来ない。結局、その後もまともな会話のないまま家に着いてしまった。
「じゃあ美奈、また明日」
「ええ、おやすみなさい」
気まずい雰囲気ながらも別れの挨拶を交わし、俺と美奈はそれぞれ自分の家の門をくぐり別れる。結局仲直りをするには至らなかったが、先程少し話した際、店で感じた美奈からの嫌悪感のようなものは、薄れたように思えた。
明日、美奈の機嫌が直っていることを祈ろう。そう思いながら、重い気持ちで玄関の扉を開いた。
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