タクという犬。


今から数十年も前のお話。


むむのイトコの家には

タクという名前のオスのチワワがいました。


当時むむが暮らしていた地域というのは

車もほとんど通っていない

生粋の田舎町だったので


今では決して考えられないような事ですが

昔は猫と同じように小型犬のことも

放し飼いにしている家庭が結構ありました。


ちなみにこのタクという犬の家もその中の一軒であり、タクは常に放し飼い。


タクは毎日近所を一人で散歩した後に

決まってむむの住む家を訪れて

当時引き戸で鍵もかかっていなかった

むむ宅の玄関を

勝手に前足で器用に開けては

リビングへとあがり込み、

昔むむが飼っていたジュンという犬と共に

夜まで我が家で過ごしていたのでした。


むむが物心ついた頃からすでに

そんな生活が普通の光景だったので

むむはしばらくの間

「犬にも親戚同士の家が分かるんだ」

なんていう奇妙な勘違いまでしてしまっていたほど。


ちなみにタクはすでにかなりの

おじいちゃん犬で

歯も全て抜け落ちていた為

人を噛んだりするような事も

ありませんでした。


最近になってふと

「そんな犬もいたな…」

なんて思い出して母親に聞いてみたら


「あれは散歩もしてたけど、一番の目的は色んな人の家をまわって勝手に戸を開けては自分の飼い主の靴がないかを確認してたのよ。靴さえあれば、飼い主がそこにいるって分かるからね。」


と教えてもらいました。


なんだよソレ!

天才すぎるだろ!


どうやらタクは飼い主の行動パターンと

友人・知人の家をほとんど把握しており、

自分が置いて行かれてしまった時には

自力で飼い主の事を

探しに行っていたようです。


飼い主が行くであろう家を探して

チワワが勝手に戸を開けて

入ってくる。


今考えたらかなりシュールな絵柄ですよね。


まだ車も人も少なく、

近所の人ともみんな仲が良くて

どの家も鍵をかけずに過ごしていたような

遠い遠い昭和の時代だからできたこと。


なんだか今の暮らしに比べたら

まるでおとぎ話の世界のようですが

今でもたまにタクの事を思い出す度に

「日本って平和だったんだなぁ」

としみじみ考えてしまう

むむ山むむスけでありましたとさ。



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