彼の名前は、チュン三郎。
数年前、ひょんなことから
むむは職場の人から
1匹のインコを譲り受ける事になりました。
そのインコは
普段ペットショップなどで
よく見かけるセキセイインコとは違って
緑の色素や体の模様を有さない
全身がヒヨコ並みに真っ黄色な
ルチノーと呼ばれる突然変異種の子でした。
しかもまだ生後数ヶ月。
羽根すらもきちんと生え揃っていない
状態です。
むむは小さい頃から
小鳥を飼うのが夢だったので
そのインコを我が家に迎え入れることが
日々楽しみでなりませんでした。
そしてついに待ちに待った
インコを迎えに行く約束の日。
今まで小鳥などというモノを
飼った事がなかったむむすけは
当時自分が何を持っていけば良いのか
さっぱり分からず…
とりあえずホームセンターで買った
やっすい虫カゴを持って
そのインコを迎えに行くことにしました。
むむがもらう予定になっていた
その黄色いインコは
末っ子だったせいか他のインコに比べても
いちだんと体が小さく、
当時の飼い主さんからも
「他のインコの兄弟に
よくイジメられてたんですよ」
という話をあらかじめ聞かされていました。
実際にカゴの中を見てみると、
確かに他の兄弟達はみんな
可愛いブランコに乗って
元気よく遊んでいるというのに、
その子だけは何故か一人ぼっちで
カゴの下で伏せ目がちに
しょんぼりと立ちすくんでいるだけでした。
『むむがこの子を幸せにしてあげたい!』
そんな彼を持ってきた虫かごの中に丁寧に
入れながら、むむはそうかたく決意したのでありました。
こうしてむむのキラリと光るインスピレーションによって『チュン三郎』という立派な名前を名付けられたこのインコは、この日からむむと一緒に我が家で暮らす事となったのです。
家に着いてすぐ、
あらかじめ用意していた鳥カゴの中に
チュン三郎を入れてみたのですが
すぐに環境に慣れる事ができなかったせいか
カゴに入れた瞬間に
チュンチュンチュンチュン!!
とけたたましく鳴いてしまうチュン三郎。
仕方がないので
むむが彼をカゴの外に出してみると
チュン三郎は決して無駄に部屋の中を
飛び回るような事などせず、
ただひたすらヨチヨチと
まだおぼつかない足取りでむむの後を
一生懸命についてくるではありませんか。
むむはそんな彼の姿が愛らしくて
チュン三郎を膝の上に乗せて
一緒にテレビを見たり
両手で優しく抱っこしたりして
その日一日を二人で過ごしました。
元の飼い主さんからは
「すごく甘えん坊なんですよ」と
聞かされてはいたものの…
まさかインコがここまで人間になつく生き物だなんて思ってもみなかったむむは
この時からチュン三郎の事が
たまらなく大好きになりました。
こうして仲良くチュン三郎と
幸せな時を過ごしていたむむでしたが、
夜が更けていくにつれて
だんだんと困った事になってきました。
それは、なんとチュン三郎が
寝る時間になってもカゴの中で寝る事を
嫌がりはじめたのです。
むむがずっと外に出していたので
当然といえば当然だったのですが
何時になっても、何度カゴに入れても
寂しそうにこちらの様子をみながら
チュンチュンチュンチュン!!
と鳴きつづけるチュン三郎。
それは電気を消しても
決しておさまる様子がなかったので
仕方がなくむむはまた膝の上に乗せて
両手で包んであげたり、
むむの服で暖めてあげたりして
寝かしつける事にしました。
…が。
確かにむむの手の中やくるんだ服の中では
ちゃんとウトウトとするクセに、
いざカゴの中に戻してみると
またチュンチュンチュンチュン!!と
大きな声で鳴き出してしまう始末。
そんなチュン三郎の様子に
すっかり困り果ててしまったむむは
「何か自分の匂いがする物を入れれば
落ち着くんじゃないか」と思いつき、
当時から良く愛用していた
黒ニーハイ(洗濯済み)にチュン三郎を優しくくるんで、そっとカゴに戻してみる事にしました。
するとこれが意外にも大成功!
そのままチュン三郎が静かに眠ったのを見計らって、むむも眠りにつく事にしました。
翌朝、チュン三郎の鳴き声で
目覚めたむむ。
見るとカゴの中から
こちらに向かって元気よく鳴いている
チュン三郎の体には
もはや昨晩くるんでおいたはずの
黒ニーハイの姿など
どこにもありません。
むむが何気なくカゴの中の
黒ニーハイを探してみると、
そこには鳥カゴの中に設置されている
水入れの中にチュン三郎に突っ込まれて
無惨なほどにビッシャビシャに
濡らされてしまった
可哀想な我が黒ニーハイの姿が…
そんなチュン三郎のあまりに意味不明で
摩訶不思議アドベンチャーな酷い仕打ちに
「ふぬぉぉおぉぉーッッ!!
コイツにはもう二度と何も貸してやらん!」
とかたく心に誓った
むむ山むむスけでありましたとさ。
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