旅先で…
前に職場の人達と
京都に遊びに行った時のこと。
沢山の観光地をまわれるよう、
むむ達はバスカードを買って
色んなお寺をまわっていました。
いくつかのお寺をまわり終えた頃、
あるお寺で『胎内巡り』というイベントを
しているのを見つけたむむ達。
胎内巡りとは
大きく真っ暗な大仏様の体の中に入って
中に一部分だけ明るくなっている場所で
ろくろみたいな石を回しながら
お祈りをすれば
自分の願いが叶うというモノでした。
むむは基本仏教の
『救ってもらえる神様なら
なんでも大好き!』
な無宗教人間なので
もちろんノリノリで参加する事に。
いざ大仏様の中に入ってみると
中は本当に真っ暗で。
とにかく数珠の形をした手すりだけが
頼りとなる世界でした。
静寂の最中、
厳かな雰囲気の中で
探り探り足を進めながら
むむはふとある事を思ったのです。
『あ。
バスカード落とした。』
…と。
そうです。
完全に視覚を奪われてしまったこの世界で
必死に転げないよう
数珠みたいな手すりに一生懸命つかまって
歩いていたむむは
いつの間にか手にしていたバスカードを
うっかり落としてしまっていたのです。
気づいた頃には
時すでに遅し。
後ろは長蛇の列で止まることなど
許されない環境な上、
真っ暗なこの場所で
小さなバスカードを見つける事など
本当に不可能な事でした。
『あぁ…バスカード…
バスカード…』
むむの頭の中はいつしか
その単語一色で
埋め尽くされていました。
前後に並んだ人達に促されるがまま、
自分の足を進めていくと
本当に一部分だけ明るく照らされた場所に
辿り着きました。
そうです。
ここが『願いの叶う場所』なのです。
みんなろくろの様な石を回しながら
思い思いに願いをかけています。
もちろんむむもそれはもう、
他の人にも引けをとらない程の勢いで
ろくろ石をグルングルンと回しながら
必死にお願いしたモノです。
『バスカードが見つかりますように!!』
…と。
本当は仕事の事とか
彼氏が欲しいだとか
宝くじが当たりますよーに!だとか
叶えて欲しいお願い事は
山ほどあったハズなのに、
まさか京都にまで来て
実際に願った願いが
『バスカード』だなんて…。
そして願い終わると
またみんなで連なって
数珠の形の手すりを頼りに
地上へとあがって行くのです。
地上に着いてすぐ
むむはそのまま係員さんの所に
向かいました。
『すみません!
バスカードを無くしたんですけど!』
すると、その係員さんは
むむの気迫に押されてか
やけに不思議そうな表情で
『それはこのくらいの大きさですか?』
…と、両手を大きく広げるのです。
いやいや、
バスカードだよ?
カードの大きさに決まってるじゃん!
そう思ったむむは
胸元で小さなカードくらいの形を
作って言いました。
『バスカードですよ?
普通はこのくらいの大きさに
決まってます!』
するとますます不思議そうな表情になり
『いや、普通はこのくらいですよね?』
とまぁた大きく両手を広げる係員さん。
むむがあからさまに
『はぁ~?』って顔をしだした瞬間、
一緒に旅行に来ていた職場の人が
むむの元へ猛ダッシュで駆け寄ってきて
むむに向かって言いました。
「あんた!さっきから
『バスタオル』って言ってるから!」
…と。
そうです。
動揺しまくっていたむむは
係員さんに『バスカードを落とした』
と報告しているつもりが
『バスタオル』と間違えて口走っていたのです。
そのやり取りを見ていた係員さんは
『バスカードね。はいはい。』
と言って懐中電灯を持って
大仏様の中へと入って行きました。
すぐに見つかるむむのバスカード。
やっぱりあの大仏様の
胎内巡りは
ご利益あるわァ~
…と思ったむむ山むむすけでしたとさ。
(係員サン、
その節は大変失礼いたしました。)
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