それでも彼は計算する


柴犬の策略にまんまとハマり、

柴犬を飼うハメになったむむ山家。


犬小屋に彼がやって来る度に、


「柴犬がいるね。」


「また柴犬が来てるよ。」


「あのシバ、また来たよ。」


「今日もシバ来てた。」


…ってな具合に連日口々に

彼の動向を報告しあっていた頃の名残から、

彼の名前は『シバ』になりました。


急遽飼い犬が二匹になった事により

今まで禁止されていた

むむの犬の散歩も晴れて解禁となり、


むむはお母さんと交替で

毎日犬の散歩をする事になりました。


とはいえ、

まだ子供だったむむにとって

中型犬二匹の同時散歩は過酷である上、


普段は大人しいクセに

散歩の時になると

野良犬だった頃の血が騒ぎ出すのか

急にものすごい力で走り出すシバのせいで

むむの手からリードが離れてしまう事も

しばしば。


その度にむむは必死にシバを

追いかけるのですが、

むむの手が届かない

ギリギリの位置を狙っては

グルグルと走り回る彼。


むむが泣いて

家から犬用のオヤツを持ってくるまで

永遠にそれが続くので

もしかしたらこれも

彼がむむからオヤツをもらう為に考えた

作戦だったのかもしれません。


あまりにもむむがシバのリードを離してしまうので見兼ねたお母さんが


「リードが離れた時は

地面についたリードの端をすぐに足で踏んだら簡単に捕まえる事が出来るのよ」


と教えてくれました。


確かにその日からというもの

あやまってリードを離してしまっても

すぐに足でリードの端を踏む事で

簡単にシバを捕まえられるようになりました。


しかしそんな日々もほんの束の間…


もともとずば抜けて知能が高かったシバは、

むむのそんな行動を先読みして

リードが離れた瞬間に、

地面についた自分のリードの端を口でくわえては猛ダッシュで逃げるという高等技術を身につけてしまったのです。


こうなってはもう

成す術がありません。


むむはまた泣きながら家に帰り、

犬用のオヤツでシバをおびき寄せるしか

ありませんでした。


ある日、

むむがいつものように2匹同時に

お散歩をさせていた時の事。


あろうことか何かにつまずいたむむは

ド派手に転んだ衝撃で

キュンキュンとシバの両方のリードを

離してしまったのです。


リードが離れてしまった瞬間、

まさに「しめた!」という表情で

シバはリードの端をくわえて走り出しました。


そう…


キュンキュンのリードの端を…。


自分のリードの端をくわえていると思い込み、意気揚々と得意気に走り回るシバ。


何が起こっているのか分からずキョトン顔でシバにひっぱられ、そのままついて行くキュンキュン。


転んだ痛みでその場で泣きつづけるむむ。


そんな混沌極まりない地獄絵図な状況の中、


「なんか犬が犬を散歩させとるゾ。」


…と、まぁた通りすがりの人に

ヒソヒソされてしまった

むむ山むむすけでありましたとさ。




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