すべては計算だったのね。
中型犬へと育ったキュンキュンは、
お父さんに立派な犬小屋を作ってもらって
庭で飼われる事になりました。
とはいえ、キュンキュンも
うら若き乙女なもんで…
キュンキュンが発情期を迎えると同時に
どこからともなく
キュンキュンのフェロモンを嗅ぎつけた
オスの野良犬がわんさかやって来ては
ウチの庭をウロウロウロウロ…。
おかげで外犬だったキュンキュンも
発情期の間だけは
家の中で飼われる事が
習慣となっていました。
ある発情期の時期にも
どこからともなくオス犬がやってきては
我が家の周りをウロウロ、ウロウロ。
むむ達家族は、
知らない犬を庭で見かける度に
わざと驚かしたりして
追い払っていたのですが、
ある小雨の降る日の事。
家の窓から
むむが何気なく庭を見渡してみると、
なんとキュンキュンの犬小屋に
勝手に入って雨宿りをしている
犬がいるではありませんか。
彼は首輪もしていない犬でしたが、
野良犬にしては珍しい
シュッとした体型と
クルンと巻いた尻尾が特徴的な
とても格好のよい柴犬でした。
その柴犬は、他のオス犬達のように
キュンキュンを探して
家の周りをウロつくような真似はせず
ただただキュンキュンの犬小屋で
休んでいるだけのようでした。
「雨宿りくらいならまぁいっか」
そう思ったむむ達家族は
その柴犬を追い払う事などせず
その日は見過ごす事にしました。
しかし不思議な事にその柴犬は
その日を境に、晴れた日も雨の日も
毎日我が家にやってきては
キュンキュンの犬小屋で
過ごすようになってしまったのです。
むむ達家族が近寄っても
恐れる様子などなく
ただひたすら他人の犬小屋の中で
昼寝をする柴犬。
「何の害もないし、別にいいか」
いつしかその柴犬がその犬小屋で過ごす事を
家族全員が黙認しだした
そんな矢先…
ある事件が起きました。
なんとその柴犬が、
むむ宅に訪れてくる来客に向かって
吠えるようになってしまったのです。
「いやいや!!
お前、ウチの犬でもないクセに
何で勝手に吠えるんだよ!!」
そんな家族の総ツッコミすらもろともせず
来客が来る度にいちいち吠え続ける
我が家に全く無関係な柴犬。。。
もはや元祖我が家の番犬であったハズの
キュンキュンすら
彼の勢いにポカーン…とする始末です。
しかも困った事に、
鎖につながれていない
フリーランスでフーリガンな彼は
テンションがあがりすぎると
そのままダッシュで来客を
追いかけて行ってしまう始末…。
いつしかご近所さん達の間では、
「むむ山さん家は、
飼い犬も鎖に繋がず非常識よねぇ…
ヒソヒソ…」
と噂になってしまうほど。
違うんだ!!
ウチの飼い犬はキュンキュンだけで
あの柴犬は全く知らない赤の他人なんだ!!
そんなむむ達の心の叫びなど
届くハズもなく、
むむ達はご近所さん達から
白い目でみられるようになりました。
事態を重くみたむむ達は考えました。
「もう
…と。
柴犬がウロついている以上、
キュンキュンを外には出せない。
お客さんもウチを訪ねて来れない。。。
こうしてむむとお母さんは
ホームセンターで首輪とリードを
購入し、
逃げられるのを覚悟で
その柴犬を鎖に繋ぐ事にしました。
柴犬を二人でハサミうちにし、
ジリジリと間合いを詰めながら
お母さんが買ってきたばかりの首輪を
そ~っと袋から取り出した瞬間ーーー…
その柴犬は
今まで見たこともないくらいの
嬉しそうな表情で
その場で飛び跳ねはじめたのです!
多分、この柴犬は
迷い犬か
過去に人間に飼われた事のある
捨て犬だったのでしょう。
首輪を見た瞬間、
ドッグフードをあげた時よりも
窓からオヤツを投げてあげた時よりも
喜んでいました。
そうです。
勝手に犬小屋で暮らし始めたのも、
来客を吠え始めたのも、
すべては我が家で飼ってもらう為の
彼の計算だったのです。
その証拠に
鎖で繋いだその日から
来客が来ても吠えることは
ほとんどなくなりました。
『いつの間にか
飼い犬が増えていた。』
そんな柴犬の奇妙な策略に
ものの見事に巻き込まれた
むむ山家でありましたとさ。
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