君の歌声は遥か彼方。

分かる人には分かってしまうでしょうが、

むむが前に勤めていた職場では

夕方になるとある担当になった者は

みんなの前で歌声を披露するという

業務が与えられていました。


みんなそれぞれ歌はそこそこに

うまかったのだけれど、

中でもA君という男の子だけは

飛び抜けて声量も表現力も秀でてて、


その声量は時に建物から数m離れた場所にいる人の耳にまで届いてしまうほど。


『この子、仕事間違えたんじゃないか?』と思わざるを得ない彼の才能に驚いたむむは、

一度だけ彼にその歌の秘訣を聞いてみたことがありました。


「A君はどうしてそんなに歌が上手なの?」


すると彼は笑顔で答えました。


「実は仕事に来る前に、

ダムで歌ってから来るんですよ。」


なるほど。

DAMで歌ってるのか。


最近のカラオケは日中の値段も安いし、

一人カラオケなんかも流行ってるから

いい練習になるよね。


むむは、すごく感心しました。


一つの事にこだわって、日々切磋琢磨する。


それってものすごく素敵な事ですよね!


そう思ったむむは、

この感動を伝えようと

同じ職場の人に言いました。


すると、その人は冷やかな顔で

むむにこう言うのです。


「あんた…あの子の言うダムは

カラオケの方じゃなくて、

ほんまもんのダムだから。」


え…?

ほんまもんのダム…?


そう、

彼が仕事前に大声で歌っていたのは


カラオケのダムなんかではなく


お水を貯めておく方のダムだったのです。


「大自然に向かって

人目も気にせず大声で歌うって

さぞかし気持ちがいいんだろうナァ~」


などと思いつつ、

ダムで一人で歌っている所を

何度も職務質問をうけたという

彼の痛々しい情報を


無理矢理聞かなかった事にした

むむ山むむすけでありましたとさ。


…って、めっちゃ不審者じゃんッッ!!







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