そのボタンは押してはならない


むむの家には2匹の亀がいました。


名前は『武蔵』と『小次郎』。

まるでどこかのロケット団のようなネーミングですが、残念ながら全くもって無関係です。


彼らはどこにでもいる

ごく普通のクサガメでしたが、

過保護すぎるウチの母親に

スーパーに売っているおつまみ用のエビや

キャットフードを日常的に与えられ、

いつしか「ミュータントか!?」と間違えられるくらいに巨大化していました。


そんな愉快なタートルズ、武蔵と小次郎は

普段はベランダのケースの中で

暮らしていたのですが


むむが学校から帰ってくると

むむのお部屋でお散歩をするのが

日課となっていました。


ちなみに亀という生物は

意外にも高い所が好きみたいで

部屋の中でゲームをしている

むむの膝の上に勝手に登ってきたり、

テレビの下の棚の上に登ったりするのが彼らのお気に入りでした。


ある日、いつものようにタートルズを部屋で散歩させながら初代プレステでRPGをしていた時の事。


小次郎はむむの膝の上でくつろいでいたのですが、武蔵はまたテレビの下の棚に入って

初代プレステの上に乗っかっていました。


むむはその時何も思わなかったのですが、

むむが念願のラスボス戦に入った瞬間、ある事に気がつきました。


なんと初代プレステの上に乗っかっている武蔵が居眠りをして、彼の左後ろ足が徐々に伸びて来ていたのです。


そう…

彼のその左後ろ足のすぐそばには

初代プレステのリセットボタンがあります。


むむは只今ラスボス戦まっさかり…


しかもセーブをしたのは随分と前です。


第1形態、第2形態とお決まりの変身を遂げ、なかなか倒れないラスボス…


初代プレステ本体の心地よさに包まれ

全然目を覚まさない武蔵…


完全に気を抜いている武蔵の左足は

どんどんとボタンの方へ伸びて来ています。


ラスボスの攻撃のターンに武蔵を動かす事もできるのですが、もともと臆病な彼らなだけに、寝ている間に下手に刺激をしてしまうと驚いて、それこそプレステ本体を動かしかねません。


もはやラスボスそっちのけで

むむと居眠り亀との戦いです。


数ヶ月も仲間と旅をして

ひたすらレベルをあげ、

苦労して苦労してやっとたどり着いた

ラスボス戦…


それを、あんな亀一匹の左足で終わらされてたまるかァァァァ!!


こうして

何とかむむはラスボスに勝利しました。


でもセーブが出来るのは

長い長いエンディングの後です。


むむはそのエンディングのムービーを見ることもなく、ただひたすら険しい表情で亀の左足とリセットボタンの距離ばかり凝視していました。


幸いリセットボタンは押されることは

ありませんでしたが、


武蔵のおかげで多分いつものラスボス戦より

さらに臨場感あふれる戦いが出来たように思います。


ありがとう!武蔵!

そしてもう二度とプレステの上に登るなよ!

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