自覚
目覚めては二日酔いに悩まされる日が始まった。
その頭のままに昨日のことが逡巡し、さらに痛む。しかし昨日のことは夢ではなく確実に現実であったとおかしな確信があった。故に信じてみようと思ってもいた。もっと端的に言おう。私は責任を夜に押し付けたかったのだ。
人間とは責任が生じてこそ初めて真っ当な仕事をこなせるものだと思っていたが、過度なストレスに繋がる責任は非常に効率を悪くするというのが理解できたからこそ投げ出そうとした。誰かの責任下でやる仕事ほど気楽なものはないからだ。
プレゼンまではもう少し、仕上げるとしたら今日か明日。夜の言う通りに書き換えてみよう。乾坤一擲、負けるならのって負けるべきだ。
ベッドから起き上がりコーヒーを淹れながら上司に休みの連絡を入れた。
パソコンを起動し、眉間をノックする香りをまとった朝日を吸い込んだ。
一日はあっという間に過ぎ去り、何とかプレゼンは完成した。
夜の言う通りにまとめてみれば綺麗にまとまったものが出来上がった。ここまでは奴を信じてよかったと思ったが、問題は当日の発表だ。
私は人前にて話すということが大の苦手で、人前に出るという前提条件があると主張がすべて散らばっていく。黒の銃弾で打ち抜かれる感覚、自分自身からすべてが乖離していくような感覚に襲われるのだ。
相手にしっかり伝わるだろうか、そのためにはどんな情報が必要だろう。そういった装飾の部分ばかりに目がいってしまい元の素材を駄目にしてばかりいた。だからこそ夜の話は大変に興味深く、自身の闇を貫かれたように思えた。
プレゼン前日になってもどうしてか心は落ち着いていた。何を伝えるべきかわかっていたからだろうか。それとも私がとてもずるい人間だからだろうか。どちらにしても僥倖というものだ、享受するに越したことはない。
その日の夜は海沿いの道を歩いた。外灯と外灯がぽつりぽつりと項垂れて足元を照らしていた。ふと人間みたいだと思ったが、どうしてそんな発想に至ったかは自分でも理解できなかった。理解できないその謎を潮騒が連れ去っては連れ戻し、空に溶けた水が肌を冷やした。
割れた月はあれどやはり奴はでてこなかった。どちらにせよ明日には会えるという気持ちが夜を連れ去った。
プレゼン当日、ほどよい緊張はしたがいいプレゼンができたと思う。最中に相手の反応を窺ったが大体の手ごたえはあった。プレゼンとはこの程度のシンプルな作りでいいのかと拍子抜けし、同時に案外人前で発表するのも問題ないかもしれないという思いが芽生えた。
私の中では大勝だった。飛び上がった心は仕事終わりに酒とつまみを買って、あの海沿いで夜を相手に一杯やろうと思っていた。
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