第32話 Several years later
「しかし貰い過ぎだよなぁ」
楽しそうに笑う。
「そうですね」
「じゃあ新幹線の切符を買ってきてやるから、これでも食べて待ってろ」
ルマンド(お菓子)を一袋渡してくれて、緑の窓口に向かって歩き出した。
今日仮釈放になったのだが、身元引受人が来られないので、刑務所から一人、職員の方がわざわざ駅までついてきてくれた。
しかも刑務所では甘い物が殆ど出ないので、甘党の私は口淋しい時があったのだが、それを予見したかの様にお菓子をくれた。
どこの刑務所もこんなに親切なのだろうか、と考えながらルマンドを美味しく頂きながら考える。
やっぱり同情してくれているのかな。
甘いルマンドは少ししょっぱく感じた。
半袋も食べ終わった所で、職員の方が切符を買い終えて戻って来た。
「おう、たくさん食べたなぁ」
笑顔で切符を渡してくれる。
ありがとうございます、と受け取り作業報奨金の袋から代金を出そうとするが、
「家まで帰る切符代は、刑務所持ちだぜ」
と言って受け取ろうとしない。
「いや、半分までしか出ないと聞いていましたが」
「いいって。花でも買っていってやりな。ほら新幹線来たみたいだから行こうぜ」
「でも……」
「じゃあこうしよう。この先、俺や俺の家族が困った事になっていたら、その時はお前が優しくしてくれな」
行こう、という風に私の肩を軽く叩き歩き出す。
ありがとうございます、とその背中に深々と頭を下げた後、後ろを着いて行く。
発車のベルが鳴る。
「じゃあな。もう悪いことするなよ」
「はい、本当にお世話になりました。ありがとうございました」
新幹線のドアが閉まり、ゆっくりと西明石駅を離れていった。
あれから何度目だろうか。
いつの間にか初夏を感じる陽気になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます