第31話

 風が凪いだ。

 驚き振り返る。

 聞き間違いかとも思った。

 若しくは他の人に向けられたものか、とも思った。

 しかし、輝き透き通る双眼は、真っ直ぐ私の方を見ていた。

 色々と聞きたい事が出来た。

 が、

「何故」

 それだけ聞いてみた。

「言いたくない事は言わなくて良い。言いたくなったら言うだろうから。そう言っていたのは渡邉君だよ」

 よくそんな昔の事を。

 気が動転し、胸が高鳴り、足が震える。

 じゃあ、

「出てくるのが、何年先になるか判りませんし……前科は一生つきますよ。前科がばれたらもうそこには住めないでしょう。そんな事がこの先、私は一生続くのですよ」

「では、一生、いえ、永遠に守ってあげます。ですから待っています」

 答えは解かっていた。

 しかし、私が思っていた以上の答えが返ってきた。

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 涙が出てきた。

 その場に崩れる。

 もう泣くしかなかった。

 刑事さん達は一足先にパトカーの方へ向かい、郁美さんと二人きりになる。

 泣き崩れている私を、優しく胸の中へ受けいれる。

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 子供の様に泣きじゃくる私の頭を、飽く事無く抱き続けてくれた。

 凪いでいた朝風が二人を撫でて行った。

 爽やかな朝日が周囲を照らしてくれていた。



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