第24話 エピローグ

 久々に仕事をしている為か思ったより力が入らない。

 しかも久しぶりのキャバクラ勤務と来たものだから当然かもしれない。

 休みボケもあるかもしれない。

 動きが遅い、と美貴さんに蹴飛ばされた。

 ちょっと休みすぎたかなぁ。

 苦笑する。

 まさか帰って早々にキャバクラ勤務させられるとは思ってもみなかった。

 久しく現場には出ていなかったが、アンジェルーチェは昔と何一つ変わっていなかった。

「あらオーナー、また現場に出る様になったの?」

 常連で来てくれていたお客さんがまだ来てくれていた。

「ええ、暫くは」

「そう、頑張ってね」

 そう言って機嫌よく帰っていった。

 ふぅ、しかし目が回りそうな忙しさだ。

 時計は二十三時を回るが一向に客は引かず、ハコは一杯だ。

 低血糖で倒れない様缶コーヒーでも飲んでおこう、とバックルームに入ろうとした其の時、

「オーナーお願いします」

 若い黒服に呼ばれる。

「ちょっと行儀の悪いのがいまして」

 店の奥を見ると確かに大声で騒いでいるのがいた。

 何でつきあってくんねーんだよ、と大声で女の子に怒鳴っている。

 こりゃまいったな。

 しかしもうこういうあしらいは慣れていたので冷静に対処できる自信があった。

 悠々と店の奥まで行き、

「お客様」

 と声をかけた瞬間、私は冷静では無くなってしまった。

「よう、久しぶりだな」

 肩をポンポンと叩かれる。

 高居先輩達だった。

 客席には取り巻きが四、五人座っている。

 言い寄られていた女の子が私の背中に隠れる。

 その様子を見て不機嫌な顔になる。

「おうおうもてるなぁ。つーかその女も人殺しているのか。お前、人殺しには凄くもてるもんなぁ」

 嫌らしく言い出した。

 取り巻きが笑い出す。

 誰の事言っているんだ。

 頭に血が上った。

 気がつくとテーブルをひっくり返していた。

 もう感情的になってしまった。

「てめー表へ出ろ」

 怒鳴りつける。

 そして高居の胸倉を掴んで外に引きずり出そうとした。

 が、やけに胸に脹らみを感じる。

 手の平で触ってみるがやっぱり感じる。

 おかしい。

「名可男さん」

 懐かしい偽名を呼ぶ声がした。

「名可男さん、名可男さん」

 聞こえるはずの無い名前なのだけど。

「名可男さん」

 体を揺らされていた。

 誰だ、目に光が飛び込んできた。

 ゆっくり目を開ける。


「大丈夫ですか、うなされていましたよ」

 隣には郁美さんが居た。

 心配そうにこちらを見ている。

「いや、すいません。嫌な夢を見ていました。起こして頂きありがとうございました」

「そうですか、悪い夢が解けて良かったです。で、そろそろ着陸の様なのでベルトを締められては」

 何故か少し恥ずかしそうに言う。

 気がつくと郁美さんの胸を思いっきり手の平で触れていた。

「す、すいません」

 慌てて手を離し何度も平謝りする私。

「そんなに謝らないで下さい」

 郁美さんは怒った様子も無く、少し赤い顔のまま笑ってくれた。

 飛行機は着陸態勢に入る。

 窓から南の国の如き家並みが見えたがすぐ後ろに流れていき、正面のモニターには飛行場だとわかる建物が見え始めた。

 わりと上手い着陸の後飛行機が止まり、機内アナウンスが流れる。

「本日は南西トランスオーシャン航空をご利用頂きありがとうございました。当機は」

 目的地に着いた様だ。


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