第11話

 あっという間に夏休みは終わった。

 夏休みにおこった事は噂になっている様で特に高居先輩にやった行為と警察に連れていかれたのがかなり噂になっている、と中山から聞いていた。

 私が教室に入ると妙な空気を感じた。

 女子が遠巻きに私の事を見ているのが解った。

 物凄く癇に障った。

 耳が人より良いのが本当に嫌になるが、男子の一部がヒソヒソと私を見ながら何かを言っているのが聞こえてしまった。

 親父は亡くなり、金も無くなり、色々とやることが出来てしまい、本当にイライラしていた。

「なに見てんだ」

 椅子を蹴り飛ばして噂していた奴の胸倉を掴んだ。

 おいやめろ、生井の声がした様な気がしたがそのまま拳はそいつの顔面を殴り飛ばしていた。


 停学になってしまった。

 先生達は私の家に何が起こったか知っていたので、あまりきつい説教はされなかった。

 家に居ても何もする事が無い。

 店の手伝いをしようにも店はもうやっていないし第一店主が居ない。

 それにここはもう私の家では無い。

 高校を卒業したら売りに出される事になっていた。

 金がそんなに必要か。

 ゴミ箱を蹴飛ばしベッドに横になる。

 いや必要だ。

 四十九日の時親父と母親はつりあっていなかった、と相変わらず口の悪い相模原の親戚が言っていた。

 それを埋めることが出来たのは亮の商才だ、と断言していた。

 殴ってやろうか、とも思ったが少し思い当たる所もある。

 はっきりいって母親は今写真で見ても相当な美人だ。

 そして相模原の家もあんな当代だが代々続く名家だし、親父と母親を繋ぎとめていたのは案外金だったのではなかろうか。

 日々の生活に追われそんな矮小な考え方しか出来なくなっていた。

 外に目をやる。

 窓から見える夕日は、少し暗いオレンジ色を見せていた。

 風は木々を揺らし、葉を少しばかり散らせていた。



 停学が解けたが相変わらずどこか腫れ物にでも触る様な態度を取られ続けた。

 噂では私は高居先輩を殺そうとして、車の前に突き飛ばした事になっている様だ。

 噂などいい加減なものだと改めて認識した。

 郁美もこの様な状態だったのだろうな。

 久しぶりに思う大好きな人の事。

 相変わらず向こうからは手紙が来るが、此方からは返していない。

 骨折してから一通も。

 利き手が折れていて字を書くのがままならなかったから。

 それに手紙を書けない理由なんて書ける訳がなかったから。

 理由は幾らでも考えられたが一番の理由は今のこの惨めな状況を知られたくない、という事だった。

 もっと良い状態になってからまとめて近況報告をしよう。

 その為には頑張らないと。

 しかし状況は厳しかった。

 夏に色々とあった為勉強は全然していなかった。

 予備校にも行っていなかった。

 手首が折れていたので、書いて覚えるタイプの私としてはやりようが無かった。

 それに警察沙汰に、三年になってからの停学。

 お金は親戚達が持っていってしまった。

 大学は諦めた方がよさそうだ。

 何か、何かないか。

 お金が儲かることは何かないか。

 高校三年生の冬、そればかりを考えていた。



 桜の木に花がつき春風が校旗をはためかせる。

 あっというまに卒業式となった。

 急に一人暮らしになった為、本当にやることが一遍に増え卒業旅行どころか遊ぶ暇もほとんどなくなってしまい、三年の二学期、三学期は何をしていたかと聞かれても解らないくらいだった。

 中山、生井と共に卒業証書で野球をする。

 二、三球球を打つと卒業証書は曲がってしまった。

 三人で焼却炉に投げ込む。

 曇り空は雨空に変わる。

 じゃあまたな、それだけ言って別れた。

 一週間後私は社会人となる。



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