第7話 銕の悪魔
「二八郎はクルミ中毒なのです。クルミを見ると常日頃の冷静さを失い、口にしたら興奮状態になって正気を失い、敵味方の区別もつかずに暴走してしまうのです」
「そんな!」
ジャスティナの言葉を聞いて、麗しのジュリアの顔が真っ青になりました。十数名の武器を持った無法者どもをひとひねりした二八郎が暴走したら、いったいどうなってしまうのか想像したのであります。
その一方、それを聞いた
「ハハハハハ、これはいい。小娘、お前もとんだ道化だな。自分の手下につぶされてしまえ!」
そう言い捨てると、二八郎とは反対の方向に走って逃げ出しました。先ほどまで手を上げていた無法者どもも、それに従って一緒に逃げようといたします。
しかし、敵味方が分からないほど興奮しているとはいえ、それを見逃す二八郎ではありませんでした。
「ガォーッ!!」
雄叫びと共に、逃げる無法者どもの中に突っ込むと、ちぎっては投げ、ちぎっては投げして、たちまちのうちに全滅させてしまいました。そして、最後まで逃げようとしていた
「ま、待て、やめろっ!! 金ならやる、クルミも好きなだけくれてやる、だから……」
必死に説得しようとする
「ガォーッ!!」
肩にかつがれ、ぶんぶんと振り回されたあげくに放り投げられた
「ガオーッ!!」
勝利の雄叫びを上げた二八郎ですが、その血走った目はすぐに次の獲物を狙って周囲を見回します。
そして、その目がジャスティナを捉えてしまったのでありました!
「ウガーッ!!」
味方としてなら頼もしい巨体が、恐ろしい悪魔としてジャスティナに襲いかかります!
しかし、その豪腕が少女探偵を捕まえようとした、まさにその瞬間、その姿がフッとかき消えました!
「ウ?」
一瞬、呆然とする二八郎。そして、その次の瞬間、その顎にジャスティナの細い足先が綺麗にクリーンヒットしておりました!
「奥義、ヴォルケーノ・ストライク! ですの」
神速のバックステップから、反動をつけて勢いよく飛び上がり、その全体重と加速力を足先一点に集中して叩き込んだのであります。その勢いはまるで火山の噴火の
そして、顎先は鍛えようのない人体の急所のひとつ。そこに打撃をくらえば、いかに強靱なる二八郎といえど
地響きを立てて倒れる二八郎を背に、スタッと着地するジャスティナ。
そんなジャスティナを驚愕のまなざしで見つめるジュリアと、傷めた足を引きずりながら孤児院の外に出てきたカリンや、ほかの子供たち。
ハッと気付いたジュリアが尋ねます。
「ニハチロー様は大丈夫でしょうか?」
それに、にっこりと微笑んで答えるジャスティナ。
「大丈夫ですわ。今までも二八郎が暴走しそうになったときは、こうやって止めておりますもの。でも、一応あとで精密検査は受けてもらいましょう」
そのジャスティナに、カリンが勢い込んで尋ねます。
「凄い! ……ティナお姉ちゃんはこんなに小さいのに、どうしてあんな大きなニハチローお兄ちゃんを倒せるの?」
それに対して丁寧に答えるジャスティナ。
「それは、わたくしが天才だからですわ。確かにわたくしの体重は二八郎の五分の一程度しかありません。しかし打撃力というのは重量と加速度が乗算されたもの。重量が足りないなら加速で補い、打撃面積を絞ることで一点に衝撃を与えればよいのですわ」
「ほえー、やっぱりティナお姉ちゃんは凄いんだね」
ジャスティナの言っていることは半分も分かっていないでしょうが、感心するカリンなのであります。
と、そのときジャスティナはジュリアの憂い顔が晴れていないことに気付きました。
「まだ何か心配事でも?」
その問いに対してジュリアは、一瞬口ごもったものの、しっかりとジャスティナを見つめて答えました。
「今日はジャスティナ様とニハチロー様のおかげで助かりましたが、ずっと居ていただくわけにはいかないかと思います。あなたがたが去ったあとで、また
それに対して、ジャスティナはニコッと笑って答えました。
「その心配はご無用ですわ。
そう言うと、サファリスーツのポケットからスマートフォンを取り出します。
「電波は来てますわね……あ、警部ですか? 内偵中だった
それを聞いていたジュリアが不審そうに尋ねます。
「前にも言いましたように、この国の警察はあてにできませんが……」
それに対してジャスティナはにっこりと笑って答えました。
「大丈夫ですわ、わたくしが今連絡を取ったのは、この国の警察官ではありませんもの。まあ、少し待っていてくださいな」
それから、ジャスティナたちが二八郎を介抱したり、手を負傷した無法者どもの手当をしたり、気絶した
前後タンデムローター式の大型ヘリが一機、町の外の荒野に着陸すると、そこから三十前後とおぼしき若い女性がひとり降りて、孤児院の方に向かって歩いてきました。
女性は、孤児院の前までくるとジャスティナやジュリアたちに向かってビシッと敬礼をしてから、
「IPOCの銭形です。
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