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「斉藤君」

 掃除を終わらせた斉藤君を呼び止める。振り返ったその顔は何処かうつろな表情だ。

「はい、マスター」

「おつかれさま。ちょっとそこ座って」

 目の前の席を指差すと「え?」と驚き顔の斉藤君。怒ってないからそんな顔しないで。

「何か温かいものでも入れようかなって」

「え」

「今日は疲れたでしょ、気にしないでいいから」

 湯を沸かしている間に茶葉を取り分けた。紅茶のカクテルはいくつかあるが、こうやってティーカップに注いで飲むことはあまりなかったりする。

「はい、どうぞ」

 アッサムティーにチェリーブランデー、それからグラニュー糖を落としたシンプルなものだ。疲れには温かくて甘いものがよく効く。

「外も今日は肌寒いしね」

「ありがとうございます」

 斉藤君は頭を下げてからゆっくりとカップを口に運んだ。コクン、と喉を鳴らしてから口を離す。

「はぁ・・・美味しい」

「それは良かった」

 その言葉を聞いてから俺も作った紅茶を飲む。温かいと言うだけで安らぐことが出来る気がした。

「今日はごめんね」

「え?」

「ミヨのこと」

 もっとちゃんと見ていれば、最初に入って来た時に気付いていれば、斉藤君の心の傷はもっと浅かったかもしれない、と思う。

「あ」

 それから斉藤君はふ、と笑った。

「大丈夫です」

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