再会と別れ
Tylorson
第1話 再会 キョンside
2月16日木曜日
スーツケースを預けて身軽になった俺は、昨日作ったおにぎりを頬張りながら飛行機の遅延情報を確認していた。正直不安でもあるが何よりも海外に行くのはこれが初めてであり、この旅の最大の目的はハルヒに会いに行くことなのだ。
~~~
去年の春、第二外国語がドイツ語のハルヒは大学間の交換留学生に選ばれた。本人曰く「あたしは第一希望をベルリンにしたのにどうして第二希望のウィーンになったのか理解できないわよ。」とのことだがロシア語の試験で何とかB評価を死守した俺からすれば、大学からの補助金に加えて少ない枠に選ばれたのだからまあいいだろうとしか言いようがない。
大学に入ってからというもの閉鎖空間はほとんど出現せず古泉のバイト数は激減していた。ハルヒはヨーロッパを満喫しているようだったが、どちらかといえば寂しいのは俺の方だった。
大学3年生になり、就活等で色々と忙しくなる前に海外に行っておこうと以前から考えていた。それもあってか、6月頃にハルヒが出発してから俺がウィーンに行こうと思い立つまでは時間はかからなかった。生協で学割が適用される安めの旅行プランを予約した。オフシーズンの冬だからバイトの貯金からでも十分間に合う金額だ。
prrrr...
キョン「ハルヒ、急なんだけどな」
ハルヒ「何よ」
キョン「俺ウィーンに行くことになったんだ」
ハルヒ「えっ」
キョン「2月に10日かけてプラハ、次にウィーン、最後にブダペストに行く予定なんだ」
ハルヒ「あたしは2月17日以降なら大丈夫だけど、いつウィーンに来るの?」
キョン「16日にプラハに到着で、19日から22日朝までウィーンにいるぞ」
ハルヒ「そうなの…」
キョン「ウィーン中央駅集合ってのはどうだ?」
ハルヒ「…」
ハルヒ「あんたが良ければ、一緒に旅行して回りたいと思ったんだけど、どう?」
キョン「ああ、俺は構わないぞ。」
ハルヒ「まだ冬までは時間あるから変更できるし、2人の方が1人あたりホテルも安くつくでしょ。」
キョン「そうだな。じゃあそうするよ。」
ハルヒ「楽しみにしておくわ。」
キョン「またな」
~~~
通貨の両替や手荷物検査を終えて、エールフランス航空の飛行機に搭乗した。勿論エコノミークラスである。パリに向かう日本人が多く、隣の席の人はパリ観光に行く日本人の夫婦だった。新作の映画2本を見て昼食のフランスパンを齧る。時計を現地時間に合わせてから眠りについた。
目が覚めて現在地を確認するとバルト海の上空で、ドイツ上空を通過してシャルルドゴール国際空港に到着した。空港はとても広く、ターミナルも多かった。乗換時間が短かったため、飛行機を降りてすぐに移動した。スーツケースを取るためにベルトコンベアーの前に来たが、一向に現れる気配がない。時間が削られていく。多分フランス語なのだろうが、そばにいる人はどうやら電話でまくし立てているようだ。
そういえば旅行計画書を受け取るときに旅行会社の人が行っていたことを思い出した。「荷物の到着が遅れることがありますので、1日分の服は手荷物に入れておいて下さいね。」と言っていた。いったん荷物を諦めて変更になった出発ターミナルに向かった。E-ticketという所でメモしておいた番号を入力してチケットを印刷するのだが、どうやら印刷できないので係員に尋ね、「エラーなら、そこの窓口で印刷して下さい」と答えた。窓口に走り、チケットを印刷してもらった。さらに荷物がどこにあるのか、追跡を頼んで数分後に「ブダペスト行の飛行機にあるのでプラハに送るよう申請します。とにかく走れ!」とのことだった。そして思いっきり駆けたが時すでに遅し、予定の飛行機は逃してしまった。
係員 「あなたは〇〇〇さんですか?」
キョン「はい、そうです」
係員 「フライトは出発しました。これが今日の最後の便です。あなたは明日の始発6:45の便に来てください。」
係員 「ホテルを調べたいなら、下にインフォメーションセンターがあります。」
明日のチケットを渡され、高校1年生の冬のあの時のように呆然としたまま階段を下りた。午後7時ぐらいだった。
ターミナルの出口近くでどうしようかと考えた。
キョン「今日どうしようかなあ…」
しばらくして、2人の男が話しかけてきた。
男「何か問題でもあるのかい?」
キョン「トラブルがあって、今日乗る予定だった飛行機に乗れなかったんですよ。」
男「ふむ。それならホテルに泊まる必要があるね。もう予約したのかい?」
キョン「いえ、これからそうしようと思っていたところです。」
男「俺はタクシー運転手なんだ。良ければパリ中心部を見て回らないか?」
多くの人は初めての海外旅行で見ず知らずの人について行くことはないだろう。
しかし今の自分はそれ以上にまいっていた。
ということで、まずインフォメーションセンターに向かった。
キョン「ホテルは空港の近くにあるのですか?」
係員「95ユーロと120ユーロの2つがあります。」
キョン「よりターミナルに近い方でお願いします。」
係員「ではこちらですね。パンフレットをどうぞ。」
手続きは速やかに進み、空港のホテルの部屋に入るまでは時間はかからなかった。当日予約にも関わらず、2人部屋で広い部屋だった。早々に荷物を置いて鍵を閉め、隣にある空港のタクシー溜まり場へ向かった。手を挙げてタクシーに乗り込んだ。タクシーが空港を出発した時、すでに外は真っ暗だった。
運転手「WiFi飛んでるから使っていいよ。海外では何かと不便だろう?」
ご厚意に感謝しつつ、早速ハルヒに連絡する。
海外ではWiFiが無いところでスマホでネットを使うと、高額なパケット代がかかってしまう。本来パリに降り立つ予定はなかったため、レンタルのポータブルWiFiが使えずに困っていた。
ハルヒ「連絡遅かったじゃない。無事にプラハに着いたの?」
キョン「ああ、ハルヒ、俺今パリにいるんだ。」
ハルヒ「なんですって?プラハに着いたんじゃなかったの?」
キョン「色々と問題が発生してな、パリでの飛行機の乗り継ぎが上手くいかなかったんだよ。
明日の朝にプラハの空港に着く予定になった。」
ハルヒ「どっちにしろあたしは今日まで試験だったから、明日の朝プラハに着くのは変わりないわよ。集合場所と時間はどうするの?」
キョン「そのまま駅集合で良いと思うぞ。時間も問題ないしな。」
ハルヒ「また明日ね。」
吊り下げてあるスマホに話しながら、運転手は高速道路を飛ばしていく。ジャポネとだけ聞き取れたが、恐らく今日の帰りは遅くなるとでも話しているのだろう。本人曰く運転手は一人の子持ちだそうだ。
「結婚しているのかい?」と聞かれたのには驚いたが、夜のパリは意外と観光客が多く、夫婦やカップルも珍しくないらしい。
50分ほどかけて、セーヌ川の隣にあるエッフェル塔に到着した。金色にライトアップされたエッフェル塔の周辺には、日本人観光客も多くいた。特に若い女性が多かった気がする。それから凱旋門を訪れた。歴史の舞台となったそれは白く照らされていた。道路が集まるところということもあってか夜にも関わらず車が多かった。さらにノートルダム大聖堂に行き、カール大帝すなわちシャルルマーニュの像の前で写真をとってから運転手オススメのレストランへ向かった。トルコ系移民が経営しているそのレストランでは、トルコ料理を中心に様々な地域の料理を味わうことができる。ケバブを1つ注文した。トルコ語で注文したら驚かれたが、ほんの少し齧った程度の知識でも実際に使えて満足だった。日本でよくある屋台のケバブ屋のものよりもはるかに大きくて美味しかった。
帰りも高速道路を飛ばして宿へ戻った。ホテル前で運転手に運賃を払って礼を言い、ホテルの部屋に入ったがこの時点で午後11時を過ぎていた。疲れからかシャワーも浴びずに眠りについた。
2月17日金曜日
朝4時過ぎに目覚まし2つで起床した。顔を洗うだけで身支度を終え、早々にホテルを出発した。5時にはターミナルへの地下鉄らしきものに乗り込み、昨日と同じ出発ターミナルへ向かった。昨日のことがあるので念を入れて早く来たものの、出発まではそう長くなかった。
7時になる前にパリを発った。エールフランスであることには変わりなかったが、飛行機は小さかった。
飛んでいる時間が短いので軽食のフランスパンだけだったが、コーヒーを啜りながら景色を眺めているうちに到着した。中欧への期待と半年ぶりの再会への高揚感が入り混じっていた。なにしろハルヒに早く会いたくてたまらなかった。
ドイツ上空を通過して飛行機はプラハ国際空港に到着した。空港はそこまで大きくなかった。WiFiルーターの電源を入れてようやくネット難民から解放されて一息つく。周囲を見渡すと、移民が多く様々な国の人々がいたパリとは違い、ヨーロッパの人々で占められているようだった。ベルトコンベアーが2周目に入ったあたりでようやく2日振りのスーツケースとの再会を果たして出口に向かう。昨日プラハのホテルへ連絡するのをすっかり忘れていたので、予定通り昨日到着ならばホテルまで迎えが付いているのだが、そうもいかないのでタクシーを拾って雨の中ホテルへ向かった。高速道路で南に廻りながら30分ほどでホテルに到着した。公園が近くにある4つ星のホテルである。チェックインを済ましてスーツケースを部屋に置き、すぐに駅へ出発する。地下鉄の駅まで北へ数100m歩き、地下鉄で一駅で「中央駅」に到着した。
地下鉄の「中央駅」を出てプラハ中央駅に向かう。歴史と芸術性が感じられるこの駅に入って、すぐホームへ向かう。日本とは違って車内改札なので改札が無いのだ。
ホームへ入場してから10分ほど待って、特急列車が到着した。ハルヒは車両のドアが開いてすぐ飛び出してきた。
ハルヒ「キョーン!」
キョン「ハルヒ!」
ハルヒ「半年ぶりね。」
キョン「大丈夫か?」
ハルヒは涙を堪えているようだった。
ハルヒ「べっ、別に寂しくなんか無かったんだからねっ。」
キョン「泣きたいなら無理しなくても良いんだぞ?」
俺はハルヒをそっと抱きしめた。
ハルヒ「キョン、あたし……」
ハルヒ「今は半年振りにキョンに会えて嬉しいのよ! 団長直々の出迎えに感謝なさい。」
キョン「ありがとな。」
ハルヒ「あと、これ…貰ってくれない?」
キョン「?」
ハルヒ「3日遅れのバレンタインよ。ありがたく受け取りなさい!」
キョン「ありがとよ。」
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