今は亡き王女のための

@teru00

第1話

僕が最後にアキを見たのは、JR山手線渋谷駅の一番ホームから線路へと消えていく姿だった。向かい側のホームから、確かに僕は死にゆくアキと目が合ったのだ。アキの方はといえば、まるで僕が僕だと気付いていないようだった。


その日の午前9時半、人身トラブルの為電車は運行見合わせとなった。学校なり職場なり、自らの持ち場に向かう人々は苛立ち、同時に諦めた。これはなんてことない、よくある都心の風景だ。


一方、生でその瞬間を目の当たりにしてしまった人々の悲鳴や怒号の混乱の中で、僕は一人その場に立ち続けていた。見下ろしていたスマホ画面には、運行情報アプリからの遅延通知が表示される。


僕はそっと、その画面をスクショする。


僕にとってはそれが、アキが今日まで確かに生きて、今日確かに死んでいった、その証だった。向かいのホームに散らばったものは、今となってはアキの容れ物だった何かであり、アキは勢いよく滑り込んで来た緑のラインの電車によって、永遠に消し去られてしまったのだ。



この物語には、異世界も魔法も学園もハーレムも確かに存在していた。

17歳の夏。渋谷から始まり、渋谷で終わったこの物語を、今僕は語ろうと思う。今は亡きヒロイン達に捧ぐ、一人ぼっちこの世に取り残されたラノベ主人公の、青春のポートレートだ。

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