草刈りの次は穴掘り?

「まだ気分悪いからそんなにペース上げられても困るんだけど。」

「情けない。しっかりとついてきてよ。早めに確認して帰らないと」


 一時間ぶり二回目の異世界。来ているのは先ほどと同じ世界の同じ場所だ。

 そして本日三度目の世界間移動酔い。三度目にしてわかったのは、普通の乗り物酔いに比べて回復が早いということ。俺からしてみたら酔う事には変わらないので何も解決はしていない。


「この世界には乗り物はないの?全部徒歩移動なわけ?」

「いや、あるにはあるよ。」

「それには乗れないのか?」

「世界間移動よりも揺れるけどいい?」

「遠慮します。」


 何故、こんな思いをしてまでもう一度訪れているのかという話は三十分ほど前に戻る。



「無事に終わったようで良かったです。ワグーにジェペ、コッコール、それに…コッコールモドキですか。」


 仕事モードでリラが報告するとコロナも事務的に返す。仕事というのはこういうものなのだろうか。


「腑に落ちないような返事だけど何か気になることでもあるの?」

「大したことではないかもしれないのですが、一つだけひっかかるところが。」

「なに?」

「コッコールモドキがいたという事ですが、あの世界のあの場所 ― EH-13ではそれはありえないのですよ。」

「どういうこと?」


 リラが少し驚いたように声を出す。


「その前に、健司さんには説明が必要ですね。EHというのは世界の管理番号です。管理局の方で便宜的に振っていて『旅人』の方もそれで異世界を把握してるのですよ。この振り方アルファベータという言語を使っているらしいですが、健司さんにとってはなじみ深い番号の振り方だと思います。後半の数字は番地と呼ばれます。その世界のどこの地域なのかを表してるものです。」


 アルファベータとはアルファベットのことだろう。確かに語源はαとβのはずだ。


「そんなことよりも何が問題なの?」

「あぁ、そこでしたね。コッコールモドキは見た目こそコッコールに似ていますが、かなり異なる種に分類されます。原産はBSと考えられていますが、そこには元々はコッコールがいないのです。ですから、見た目に関しては本当に偶然似てしまっているだけということです。」


 学校の授業を受けているような気分になってくる。


「詳しいことはわからないけど、それでそうなるとどういう問題が?」

「どちらかがいるからと言って、もう一方がいるとは限りません。特にコッコールモドキの住める環境には欠かせないものがあります。それはマナストーンです。理由はわかっていませんが、コッコールモドキはマナストーンの埋まっていない大地には生息できないことがわかっています。」

「マナストーン?そんなものEHの土地に埋まってるわけないじゃん。あり得ないよ。」


 声を荒げるようにして反論するリラ。


「だからおかしいのですよ。埋まっているとしたら、誰かが意図的に埋めたとしか考えられないのです。」


 コロナはビシッという音が聞こえてきそうなほどはっきりと言った。



 かくして俺とリラは埋まっているかもしれないマナストーンを探すためにこの世界に戻って来たのだ。


「それで、どうやってこの場所に埋まってるもの探すっていうんだ?まさか全部掘り返すなんて言わないよな?」


 先ほどの林(跡地)は改めてみると広い。数百メートル四方というのは歩いて移動できるものの、全部をしらみつぶしに探すというのには広すぎる。


「そんなバカみたいな方法は取らないって。マナストーンは高濃度のマナの塊だから調べたら場所の特定くらいはできるよ。問題はそれが深い場所に埋まってた場合、頑張って掘らないといけないってこと。」


 草刈りの次は穴掘りだ。勇者というよりも何でも屋である。


「とりあえず、始めちゃおうか。」


 彼女が持ってきていた袋から取り出したのは緑色をした球体。それを地面において少し離れる。すると、球体はひとりでに転がりだし、一直線にある方向に向かっていく。


「これはね、マナストーンを探すときに使うもので、高濃度の魔力に反応して転がっていくという便利なものなんだ。」


 そう説明を受けながら、球体の後について行く。

 200mほど進んだところで球体は停止した。


「ここに埋まってるのね。さて、掘るしかないよね。」

「ちなみに道具は?」

「私は魔法具使うけど賢者はこれかな。」


 彼女がいつの間にか手にしているのはどう見ても普通のシャベル。


「魔法で一気に掘るとかできないの?」

「ある程度は私が魔法具で掘るけどさ、マナストーンを傷つけるわけにはいかないからさ。慎重に行かないと。」


 これは本当に勇者と一緒にやるような仕事なのだろうか。


「少し離れていて。」


 リラの指示通りに離れる。念のため少し以上離れておく。

 彼女はまたもやいつの間にか取り出したハンマーのようなものを振りかぶり、地面に叩きつけた。地面がかなり揺れ、叩いた衝撃で地面に大穴が開く。とてもハンマーでやれるような芸当ではないとは思うが、こうやって目の当たりにすると受け入れるしかない。

 色々な道具を取り出すのを見ていて慣れてしまいかけているが、どこにそんなものをしまっているのだろうか。


「さて、気合入れやりましょう。早く終わらせてご飯食べに帰りましょう。」


 俺の方はもうすでにヘトヘトだというのにどうしてリラはこんなにも元気なのだろうか。異世界の人は体のつくりが違うのだろうか。

 そんなことを考えながら、二人で掘り進めて直径1mほどの蒼い石を掘り当てるまでに一時間かかり、穴の深さは10mほどであった。

 今回も案の定八割方リラが進めていたので、俺がついてこさせられた理由が見当たらなかった。

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