草刈りは楽勝?
たどり着いた今回の現場は思っていたよりも荒れていた。普通の植物に交じって明らかに異様な植物が数百メートルに
翻訳の都合なのか、常識の差なのかはわからないがどう見てもあれは木や蔓、花などという大きさではない。蔓や花は高さにして1m以上、俺の二倍くらいの大きさだ。長さは不明。それがいくつあるのかわからないが、全部刈るとしたら大変な作業になるだろう。
「なぁ、リラ。」
「何?見たことない植物に驚いた?」
「まあ、驚いてるな。俺の気のせいかもしれないけど動いてないか?」
「そりゃ動いてるでしょ。植物なんだから。養分だって自分で摂取しないといけないんだから。」
いや、そういう動いているではない。明らかに動いているのだ。蔓はうねうねしてるし、花は俺らの方に向いている。養分を取るために根を伸ばすとかそういう話ではない。まるで意思を持って行動しているかのような様子だ。
「これ大丈夫なの?」
「大丈夫。これは簡単な仕事だって。パパっと片付けて帰るよ。」
そう言うとリラは走って行き、いつの間にか持っていた剣を両手で握り、斜め上から振り下ろして木―ジェペに切りかかる。その一連の動作は何度も繰り返したことがあるかのように自然で彼女が普段から剣を振っていることの証明のようだった。
その一振りで木は倒れる。
「これ燃やして。」
俺に指示が飛ぶ。
「了解。」
倒れた木の下の部分、切り株に触れながら、先ほど教わったことを思い出しながら叫ぶ。
「燃えろ!」
リラが言うには魔法を使うのに呪文や道具などは特に必要ではないらしい。その構造を理解していて、マナさえあれば使えるのだと。だから、叫んだことには意味はない。気合を入れただけだ。
叫んだ勢いとは裏腹にライターより少しばかり強いだけの火が発生し木に燃え移る。最初の火力は弱いかもしれないが燃え移ってしまったら後は広がるのを待つだけ。徐々に火の勢いは増していき、最終的に切り株を包み込む。
「ぼーっとしてないで次燃やして。」
俺が一つ燃やしている間に五つくらいの植物が刈られていた。そのうち三つくらいはリラが燃やしたのか、すでに火がついていた。
思っていたよりも早いペースで作業をいなければならないことに焦りながらも次を燃やす作業に移る。
「その調子でどんどんやっていって。」
話を聞いた時には、伐ってから燃やすなら最初からこの林全体を燃やせばいいのにと思ったがそうはいかないらしい。
これらの植物はマナが通っている間はかなり燃えづらいらしく、それだけでなく切り株や根元をそのままにしておくと再生してしまうため、このような手順を取らないといけないのだ。それを聞いて俺の知っている植物とはかなり異なっていると感じさせられた。
リラは簡単そうに切り倒しているが、普通の斧などでは刺さりもしないほど硬い植物ばかりだ。見た目からしたら全く固そうには見えないコーコッルが実は最も硬いらしい。
硬いと言っても物理的ではなくマナが通っているための硬さ、つまり魔法的な硬さなのだ。逆にその硬さだからリラなら切ることができるらしい。筋力ではなくマナによって上回ればいい。
ここまで全部リラの受け売り。三十分詰の詰め込み教育のおかげだ。
「賢者、後ろ!」
順調にリラの倒した植物を燃やしているところにリラの声。
振り向くと後ろから葉が迫っていた。どこかで燃やし損ねたのかもしれないがそれにしても再生が速すぎる。というよりも、植物が人を襲うなんてことがあるのか?
そう考えている間に葉に叩かれる。
覚悟したよりも弱い衝撃ではあったが倒される。追撃はない。
たまたま切り倒されたワグーの上に倒れたため痛みも少なかった。
立ち上がって相手を見る。俺を攻撃した葉っぱは花の部分が落とされたコーコッルだった。コーコッルは花を落とせば動かなくなるとさっき聞いたばかりなのに。
「大丈夫?」
リラが駆け寄ってくる。
「大丈夫。ごめん、燃やしそびれたみたい。」
「いや、ごめん。私のせい。これはコーコッルじゃなくてコーコッルモドキだわ。ちょっと油断してた。」
そう言いながらコーコッルモドキに対して踏み込み、二対の葉を切り落とす。そして、越落ちた葉っぱはすぐに火に包まれる。
「これは葉っぱの方を切り落として燃やさないといけないんだ。花の形とか花びらの数が違うからそこを見て判断しないといけなかったんだけど、久しぶりに見たから忘れてた。ごめん。」
ややこしいな。
「いや、油断してた俺も悪いし。思ったより痛くなかったし。」
俺も慣れてきて油断しかかっていたところだったので後ろを気にしていなかったのだろう。
「まあ、きっと回復のためのマナ補給に焦って攻撃してきたんだろうし。こんな事めったにないだろうけど、もう少し気を付けながら残りやって行こうか。」
そう言って草刈りを再開する。
この後は大した問題なく、林一つ分の植物をすべて刈るのにかかった時間一時間ちょっとであった。
ちなみに途中から俺が火を出せなくなったこともあり、八割方の植物はリラが燃やしたのだった。
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