訪問者は管理人
予想よりも遥かに足が速かったリラに追いついたのは家を通り過ぎて神社の鳥居をくぐったところだった。
久しぶりの全力疾走で息を切らし、バレーボールをやっていた頃の面影はどこへやら。
「これくらいでばててるようなら異世界でやっていけないよ。」
「無茶言うな。お菓子とカフェオレをかばいながら来たんだから。」
「まあ、いいや。私が異世界から来てるって証拠見せてあげる。」
彼女が歩き出す方向は境内の端。
その方向にあるのはよくわからない小さな鳥居。誰に聞いても何故あるのかわからない俺の背丈の半分くらいの鳥居。リラが四日前に立っていた場所。
「まさか、あの鳥居が『門』だって言わないよな?」
「半分は正解。正確には鳥居は『門』を安定させるための役割を果たしているだけだけど。そこらへんは詳しい人が来るからそっちに聞いて。」
広い敷地ではないため時間もかからずその場所に到着する。
いつもと何も変わらず、鳥居があるだけだった。
「これのどこが異世界と繋がってるんだ。」
「常に繋がってたら間違っては入っちゃう人いるでしょ。普段は閉じてるの。さっきまでは開けられなかったわけだけどさ。今から開くよ。危なくないけど一歩下がって。」
言われた通り一歩下がる。
リラが鳥居に手を当てる。彼女のいた地面が光りだし、その光が鳥居の方に向かう。鳥居の下に変な模様が浮かび上がったかと思うと消え、光も消える。
「これで終わり。」
一見、何の変化もないがこれで異世界につながったというのか。やはり彼女の嘘なのだろうか。
そう思った瞬間、また鳥居の下から模様が浮かび上がり光始める。さっきとは比べ物にならない眩しさに思わず目をつぶる。
「世界間移動ってこんな感じだよ。」
移動って言った?何?飛ばされるの?
眩しさが収まる。
「初めまして。言葉わかりますかね?突然の訪問、申し訳ありません。移動管理局のコロトーナ・フォロ・ウェッジオートと申します。皆、私をコロナと呼びます。よろしくお願いします。」
目を開けるとそこは異世界…ではなかったが、さっきまでいなかった女の人が立っていた。
リラと同じような水色の髪に緑の目。彼女も日本人には見えない。
「どう?これで私の言うこと信じてくれた?」
得意げに言う自称勇者。
「正直、まだ状況が飲み込めてない。」
突然、鳥居周辺が光ったかと思うと異世界から人が現れたなんて言葉にしてもすぐには納得できない。
「ご安心ください。そのために私は来たのですから。本当は新しい中継点や久しい中継点に行く場合は管理局の者が先に行って説明を行うのですが、リラさんが先走ったものですから。」
コロナと名乗った女性はリラを軽く咎めるように一瞥し、背負っていた鞄から一冊の本を取り出し俺に手渡す。
「それは説明書のようなものです。これから一通りの説明はさせていただきますが、一度では理解できないかもしれませんし、納得されないかもしれないので差し上げてます。あと、細かいところやイレギュラーは口頭では省きます。では、三ページを開けてください。」
言われるがままに本を開く。
「ます、私たち移動管理局について説明させていただきます。私たちは主に『門』の管理・保守と提携先への連絡を行っています。『門』と呼ばれる異世界と繋がる場所は無数に存在します。一つの場所から複数へ繋がっていることもあれば、一つとしかつながっていない場所もあります。例えば、ここなんかは複数と繋がっています。」
出だしから信じられないような話が出てくる。
「そういう場所はとても大切です。一発で移動できない時はそういう場所が中継地点となりますから。また、そういう場所は安全であることが求められます。移動は疲れますから休憩場所としても利用できるように現地の管理者の方々に協力してもらってます。今回のリラさんも移動中にここを見つけて休憩に寄ったというところでしょう。」
「そうそう。見たことない『門』を感じたからさ。」
だから彼女はこんなに家でだらけているというのか。いや、ただ単に性格の問題だろう。
「ただ、今回軽率だったのは、ここが数十年使われていない中継地点だったことです。なので、なんとか入れはしたものの、『門』が不安定でしたので自由に使うことができない状態でした。でも、頑張って復旧させてみたらびっくり、何十という世界と安定して繋がっている場所でした。現状、完全に復旧が終わっていないので五つとしか繋がっていませんが、ここからリラさんの元いた世界にも管理局にも直接アクセスできる便利な場所です。そこはリラさんのお手柄です。世界のつながりに関しては18ページから書いてあります。」
非現実を淡々とした説明口調で突きつけられ続ける。
「それであなた…、えっと名前は…。」
「すいません。自己紹介がまだでした。
相手の話ばかり聞いていた自分のことを忘れていた。
「ありがとうございます。岸副さんにお願いがありまして。」
改まるように姿勢を正す。
「なんでしょうか?」
「この中継地点の管理・休憩所の運営にご協力いただけませんか?」
「具体的には何をすればいいのですか?」
「この数日、リラさんにしていただいたのと同じようなことで構いません。彼女は『旅人』の中でも無遠慮な方ですから、これよりは楽だと思います。タダでとは言いません。この世界の通貨が手に入るようでしたらそちらで報酬の方もお支払いさせていただきます。」
「少し考えさせてもらっても良いですか?」
バイトみたいなものだと思えばいいのかもしれないが、家に人を泊めないといけないかもしれないとなると勝手には判断できない。
それ以上に、この状況を受け入れる心の準備ができていない。
「わかりました。良い返事をお待ちしております。」
「話の途中悪いんだけど、そろそろ行かないと。依頼受けてるんだから。」
後ろから小突かれる。
「行ってらっしゃい。リラさん、お気を付けて。」
「賢者も連れてくから『
「かまいませんけど、大丈夫なんですか?耐性はありそうなので世界間移動には耐えられると思いますが…。」
「私がいるし、この世界はマナ薄いから何も使えてないけど賢者でしょきっと。」
「賢者ではないと思いますが、まあ、『門』の影響を受けて育て来たみたいですから素質的には魔法は使えるでしょうね。」
コロナさんが鞄からリラと色違いのネックレスを取り出しリラが受け取る。
話が理解できない方向に進んでいる。影響ってなんだ。近くに住んでるだけで悪影響が出るものなのか。
「とりあえず、時間ないし行くよ。」
「俺も行くの?まだ全然理解できてないんだけど。」
俺の首にネックレスをかけ、手を取るリラ。
「大丈夫。行ったらわかる。行かないとわからない。」
地面が再び光出す。
「えっ、説明聞き終わってないんだけど。結局、勇者って何?賢者ってどういうこと?名前の覚え間違いではないの?」
「あー、リラさんはそういうところ説明してなかったのですね。」
「向こう着いたら説明してあげる。」
一段と光が増し、鳥居まで光に包まれる。
「では、リラさんも岸副さんもご無事で。」
「待って。俺、異世界行くの?帰ってこれるの?」
目を開けていられないほどの光に包まれる。
「このカフェオレはどうすればいいんだ?」
最後に呟いたどうでもいい疑問の答えは返ってこなかった。
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