『不可能を可能にする方法は……ただただ、訓練あるのみ、です!』➄
「……まったく、貴方という人は、何時も何時も何時も、どうしてそうなんですかっ!」
「ははは。朝からそんなに褒めるなよ、クレア」
「褒めてませんっ! だいたいですね」
「お代わりは?」
「……いただきますけど」
「はいよ。ルル、お前は?」
「当然」
「山盛りか?」
「……半分」
「ん? 足りないだろ? ほーれ、いっぱい食べて、大きく育つんだぞー。何せ、ルルは昔からまったく、育ってないからなぁ」
「…………カイは何回か死ねばいい」
「まったくです。だけど、ルル――今朝の事、皆が帰ってきたら議題にしますからね?」
「ふ、不可抗力」
カイから、山盛りによそわれたお茶碗を受け取ったルルが私から目を逸らしました。無駄ですよ、証拠映像は既に入手済みですから。はぁ――潮風が気持ち良いですね。甲板で朝食も良いものです。
昨晩、飛空艇に帰って来たのは結局、カイとルルだけで、残りの子達は、それぞれの場所で一泊することになりました。
私は一日中、寝ていたせいか、完全復活を果たし、カイ達はカイ達で首尾よくカスヅケなる珍味を大量入手。
どうせなら一番美味しい方法で食べよう、と飛空艇の甲板で涼みながら、それを専用の炭で焼いたのですが……断言します。カスヅケは悪魔の食べ物でした。
『むふぅ♪』
『美味いだろ? ほら』
『何ですか? この白いのは』
『あ~クレアには馴染があんましないか。ヨハンとは、昔よく食ったんだがなぁ。そいつは米だ』
『コメ、ですか? 書物で読んだ事はありますが……』
『焼き魚にはやっぱり、米だ。な、ルル』
『お代わり』
『早いなっ、おい』
カイから茶碗を渡され、口に含んでみると――もう絶品でした。まさか、ここまで合うとは!
……兄さん、私に隠れてこんな美味しい物を食べていたのですね。今度、義姉さんに報せておきましょう。
その後、お酒もかなり入ったので、今朝の起床は少し遅めになりました。
正直、後半はほとんど記憶がありません。私、どうやって自分の部屋に戻ったんでしょうか? だけど、ちゃんと寝間着には着替えてました。流石、私です。
顔を洗い、着替えてカイが朝の訓練をしているだろう甲板へ向かうと――私の目に入ってきたのは、安楽椅子の上で本を読む彼と、膝上でうたた寝している、白髪ドワーフの姿。
……剣を抜かず、無言で映像宝珠を取り出した私の自制心、貴女、大したものです。ルルは後で裁判するとして――山盛りの御茶碗を受け取りつつ、ぷいと顔を逸らします。
「カイもカイです。幾ら明け方まで、お酒を散々飲んでたからって……ここで、寝る事はないでしょう!?」
「まぁ、そういうな。粕漬もう一尾、やるから、な?」
「…………」
お皿の上に焼き立て熱々のカスヅケが置かれました。
……こんな賄賂では誤魔化されません。もらいますけど。
はぁぁ♪ 脂がのっています。大量に買ってきたみたいですけど、確実に足りなくなりますね、これは。コーネリア出発前にアデルと相談して、コメも一緒に積み込まないと。
――幸せな気持ちで朝食を食べ終え、これまた昨日、カイが買ってきた珍しい東方のお茶を飲んでいると、ルルに袖を引っ張られました。ん? どうしましたか?
「(クレア、昨日のことは内緒にしとく。だから、私のことも内緒にして)」
「(? 何のことですか?)」
ルルが、小声で囁いてきたので、思わずこちらも小声で返します。
身に覚えがない――ルルの顔が変わりました。こ、これは絶対にふんだくれる相手を見つけた悪商人の顔!
そっと、映像宝珠を渡されました。
……私の直感が囁いています。これを見てはいけないと。
ですが……嗚呼! 人とは弱い生き物です。それは『聖騎士』だ『八英雄のまとめ役』だなんだ、と言われる私も同じこと。
私は恐る恐る見て――即座に、抜剣。粉としました。ふぅ。これで安心ですね。尊厳は守られました。
「(当然、複製)」
「(……分かりました。お互い、秘密にしましょう。それと、私にも複製下さい)」
「(高い)」
「(ぐっ……べ、別に戦争してもいいんですよ?)」
「(多分、クレアの方が罪深い)」
「(…………分かりました。カイの隣席権三回分で)」
「(交渉成立)」
ルルから映像宝珠を受け取ります。
これは恥です。一瞬だけ見えましたが、ああああんな風にカイへ甘えながら抱き着くなんて……お、覚えてない。覚えてないのです。ぐぐぐ……ど、どうにかして思い出さなければ。
あと、何か引っ掛かってるんですよね。何でしょうか。
食器を洗い終えたカイが戻ってきました。
「ん? どうした? クレアもルルも、ご機嫌だな」
「そんな事はありません。私は普段通りです」
「カイの目は節穴」
「辛辣だなぁ、おい。昨日はあんなに甘えん坊だったのに、二人共」
「「!」」
「まぁルルが、酒飲み過ぎると俺に抱き着いて寝ようとするのは昔からか」
「へぇ……昔から、なんですね? しかも、ルル?」
「……クレア……」
ゆっくりと首を振る戦友の悲し気な瞳を見た時、私は全てを理解しました。
この子はドワーフ。あの程度のお酒で酔う筈もなく……くっ……カイ、純情な乙女の心を弄ぶなんてっ! 許すまじっ。
まぁでも、この分ならルルは安全安心ですね。ふふふ~♪
「だけどクレア、お前なぁ……昨日のは中々酷いぞ? 酔いに任せて、俺の唇を奪おうとするだけでなく、服まで脱がして、馬乗りになろうとするなんて……危うくお婿に行けなくなっちゃうところだった」
「大丈夫。そうなったら私が貰う」
「はいはい。取り合えず、クレアは当分、酒禁止――ん? どうし……クレアさん?」
「――二人共、何も言わず黙って首を差し出せば楽に死なせてあげます。目撃者には死をっ!!」
こうして私は、心の平穏を取り戻すべく愛剣を引き抜き、カイとルルに斬りかかっていったのでした。
せ、せめて、せめて抱き着いたのだけは思い出し――うぅぅぅぅ~~~!!
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