『不可能を可能にする方法は……ただただ、訓練あるのみ、です!』④

「それじゃ、私は三日間、実家の方に顔を出してくるから」

「「「「「「「行ってらっしゃーい♪」」」」」」」


 何時もは魔法使いのローブ姿で通しているアデルが、今日は珍しく着飾り、飛空艇の甲板上で私達へ挨拶をしました。 

 ――良し。これで、一人ライバルが減りましたね。

 アデルは眉をひそめ私達を見ていましたが、両腰へ手をやると、奥にいるカイを睨みつけました。

 

「…………何か、腹立つわね。いい! あんた。私がいないからって、この子達に手を出したりしたら、焼いて、流して、刻んで、痺れさせて、凍らして、生き埋めにしてやるんだからね?」

「俺を何度殺す気だ。まぁ御両親に元気な顔見せてこい。今度、何時会えるか分からんからな」

「!? や、止めなさいよっ。こ、子ども扱いしてっ! み、みんな見てるのに……こ、こらぁ」


 頬を赤らながらカイに憎まれ口をたたきつつも、なされるがまま髪を撫でられているアデルは、その……何と言いますか、羨――こほん。不謹慎ですね。これは、止めなくてはなりません。

 私が一歩踏み出そうとする前に、ゼナがカイへ突撃。


「マスター♪ なでなでして!」

「ん~はいはい」

「♪」

「……今は、私の時間だったのに」

「ん? 帰ってきたらまた撫でてやろうか?」

「け、結構よっ! ふ、ふんっ!! ……それじゃね」


 アデルの姿が、消えました。

 転移魔法ですね。制約は多いらしいですけど、相変わらず便利そう――あーあー!!

 カイが、ゼナを抱きかかえ、私達に尋ねました。


「で、お前らの今日の予定は? ゼナ?」

「イナのとこっ! ずっとお手紙書いてた!!」 

「お~。あの嬢ちゃんのとこか。でもなぁ……ゼナ一人に行かすのはちょっと危ないかもな。誰か、一緒に行ってやってくれないか?」

「あ、あ、なら、私が~」

「……セレナ、気持ちは嬉しいが。仕方ない、オルガ」

「承った。ゼナから話は聞いている。泊まる事になったら、セレナの召喚獣で伝えよう。ウルトンだったな?」

「ああ、そうだ。助かる。ゼナ、オルガとセレナから離れちゃ駄目だぞ?」

「あ~い♪ マスターはこない?」

「…………俺は、先程の折檻で受けた傷がな」


 カイが私達をジト目で見ますが、知りません。浮気者には死を!

 ……少しだけやり過ぎてしまったかもしれません。アリスとか、聖剣抜いてましたし。

 噂をすれば、アリスが手を挙げました。


「――カイ様、私とソフィヤは商業同盟の代表へ挨拶してきます」

「本当は、カイ様にもご一緒していただきたいんですが……」 

「勘弁しろよ。お前達が、魔王を討ったんだ。それ以外の事なんか必要ない。前代表の爺さんに会ったらよろしく言っておいてくれ」

「お知り合いなのですか?」

「ま、色々あってな」

「――前代表は、確かアデルさんの」

「お祖父様だった筈です。そして、現代表はお父上……カイ様」

「お前達は、今から『何か隠し事はないですか?』と言う」

「「何か隠し事はない――はっ!」」

「ぶふっ……ま、まさか……ここまで、簡単に、引っ掛かるとは……」

「「うぅぅぅ……!」」


 カイが楽しそうにアリスとソフィヤをからかっています。

 こうしてみると、『勇者』と『聖女』には見えません。何処にでもいる――は、嘘です。こんな可愛い女の子が、何処にでもいたら世界の法則が大きく乱れます。修正しなくてはっ。

 だけど、カイって女の子の扱いに手慣れている気がします。

 基本、鈍いですけど。でも優しいですし、ちゃんと後から埋め合わせしてくれますし。鈍いですけど。

 ……はっ! ま、待ってください、私。これは、絶好の機会なのでは?

 今の現状を整理すると、こんな感じです。


・アデル→三日間は帰省。脱落。

・ゼナ→友人? さんがいるらしい、近くの港町ウルトンへ。

・セレナ・オルガ→ゼナの付き添い。この三人は、距離的にも日帰りはないでしょう。一泊はする筈。

・アリス・ソフィヤ→商業同盟代表へ挨拶。『勇者』と『聖女』が行くのです。そう簡単には終わらないでしょう。邪見に扱った、などという噂が流れれば、後々面倒な事になるのは目に見えていますし。帰りは遅い筈。

・私は、アリスから「――今日一日は飛空艇から出ては駄目ですよ?」と真顔で言われている。あの顔の時に逆らうのはまずいんですよね。


 つまり――今、予定が決まっていないのは、ルルだけ!

 こ、これは早くも勝利確定なのでは? なのではっ!?

 本当は港町をぶらっと二人きりでデートしたかったですけど……ま、まぁ、飛空艇内デートも悪くはないですね。ぐへへ。

 妄想を膨らませていると、ルルに先手を取られました。し、しまった!


「カイ」

「ん?」

「私、行ってみたい所がある」

「!? ち、ちょっと、待」

「……ま、言うだけ言ってみな」

「ウルトンに、ここ数年で有名になった干物屋があるらしい。何でも、カスヅケとかいう幻の珍味を再現したって」

「粕漬な。酒の肴にはもってこいだ」

「私、気になる☆」

「でもなぁ……俺は疲れて」

「マスター! マスターもイナのとこ、行く??」 

「おお、確かに同じウルトンだ。先生、良いのではないか?」

「えっと、えっと、お出かけしたいです」

「え、ち、ちょ、待」

「――皆さん。カイ様が困っています」

「そうですよ?」


 アリスとソフィヤの冷たい一言。目は『私も行きたいです!』と訴えている。

 ふ……残念だったわね。

 カイはそういう所、ほんと鈍いから気付く筈が「あーアリスとソフィヤが仕事中だからな。ルル、取り合えず近場で許せ」「ん。仕方ない」。

 そんな馬鹿なっ!!!?

 動揺する私を他所に、カイが気だるげに声をかける。


「うし。それじゃ各自、気を付けてな。クレア」

「な、何ですか? あ、私もルルと一緒に」

「――クレアさんは、今日一日はお休みしていて下さい。明日以降は一緒に仮商談にも出てほしいですし」

「最近、余り眠られていないのでは? 目の下に隈が出来てます」 

「つーわけだ。大人しく留守番してろ。夕方までには、帰ってきてやる」

「そ、そんなぁぁぁぁ!!!」


 こうして、私の一日目は過ぎ去っていきました。

 ……カイとルルが山盛りに買ってきた、干物は美味しかったですけど。

 ですけどっ! な、何か違います。私が思っていたのとは。

 で、でも、大丈夫です。

 まだ後四日もあります。時間はあるのです。明日こそは、カイを誘って、それで……う~う~う~……。

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