『不可能を可能にする方法は……ただただ、訓練あるのみ、です!』③

「……では、言い訳を聞こうか、ルルよ」

「私は無罪。何も悪くない」

「ほぉ」

「わ、悪くない」

「では、皆に問おう。飛空艇の甲板を目指して何故か舟底へ行き、しかも、進もうとして大穴を開けようとした、寝ぼけ白髪ドワーフ少女は無罪か有罪か。あ、因みに俺は有罪な」

「「「「「有罪」」」」」

「!? み、みんな、酷い……」

「私は無罪だと思います、先生」

「ほぉ、理由は?」


 ルルの捜索は手間取りました。

 まさか、上じゃなく下。しかも普通は入らない機械室まで入り込んでいるなんて誰も思いませんし。

 危ない所でした。最新鋭飛空艇が寝ぼけている方向音痴なドワーフに沈められるなんて笑い話にも……。

 今は朝食後のお茶を飲みつつ、ルルのお説教中です。

 当然、みんな有罪認定すると思っていたんですが、オルガだけルルの味方をしています……理由は言わずもがなですね。


「皆、少し心が狭いのではないか? 艇が沈んだわけではない。ルルとて、悪意は当然ないだろう」

「――オルガさん」

「一理は認めてもいいわ。けどね」

「ご、御自分が一番に発見されたご褒美に、これからお隣の席に座れるからって、全部を飲み込まれるのは、ち、違うと思いますよ?」

「そ、そうですっ!」


 アリス、アデルが戦闘態勢。ソフィヤとセレナも不満気ですね。

 再会してから食事の際、誰がカイの隣に座るかは都度くじ引きになっています。

 けれど、しばしばゼナがカイに甘やかされて隣へ座るので、常にそういう訳ではありません。今も、膝上で半分寝てますし。

 今回のルル捜索戦の結果、オルガはカイへ『これから、一週間、食事の際、隣に座らせてほしい』と要求。あっさりと受諾された結果、椅子の枠が減少した形となっています。

 ……精神的に余裕なのがありありと見えますね。ここ最近、引けてませんでしたから。


「オルガ、だけどなぁ……少しは怒らないとこいつの為にならんだろ?」

「ルルは朝がそれ程強くはありません。けれど――今回の寝ぼけ方には、何か理由があるのでは?」 

「ある! あるある! 理由がある!!」

「それは?」

「……昨日、私は中々寝付けなかった。仕方ないからお酒でも飲もうと思って」

「待て。ルル、分かった。お前は無罪だ。この話は終」

「――ルルさん、続けてください」

「続けて。あんたも、逃げようとしてんじゃないわよ」

「カイ様、動かないでくださいっ」

「えっと、えっと、お話が終わるまでは、めっ! です」

「……貴方という人はまたですか?」


 何か思い立ったらしいカイが場を終わらせ、逃げ出しそうになったところを五人がかりで拘束します。

 オルガが、ルルへ先を促しました。


「それで?」

「食堂へ行ったら、カイが一人でお酒を飲んでた。その後一緒に夜中まで飲んでたから、今朝は寝ぼけてた」

「「「「「「有罪確定!」」」」」」

「ま、待てっ! 待ってくれっ! この場は、あくまでもルルを裁く場の筈。し、しかも、俺は二人で酒を飲んだだけだぞっ!?」


 ゼナとルルを除く、私を含め残り六名はゆっくりと立ち上がりました。

 ……皆、笑顔です。ただし、目は全く笑っていませんが。

 相変わらずこの人は変な所で抜けてますね。

 貴方と二人きり、という点に価値があるんです。何物にも代え難い。

 それを得る為に私がどれ程の努力をしてきた、と思っているんしょうか。困ったものです。本当に困ったものです。

 アリスとアデルが問いかけます。

 

「――ルルさん」

「ルル」

「な、何?」

「――その時、カイ様とどのような姿勢でお酒を御飲みに?」

「当然。対面でよね? 隣でじゃないわよね?」

「? 当然」

「ルル! そ、それ以上はい、いか――むぐぐっ」

「カイ様、少しだけお静かになさってくださいね?」

「…………」


 止めようとしたカイが、ソフィヤと、無言のセレナに止められました。

 オルガは何かを思案しています。この局面で何を?

 まぁいいです。全ては話を聞いてから。私は先をうながしました。

 

「ルル、それでどういう姿勢で?」

「勿論、カイの懐の中に、こうやって入る形。昔、旅してる時もそうだった。仰ぐと顔がすぐ近くに見れていい」 

「へぇ……皆さん、これは全会一致なのでは?」


 念の為、確認します。

 アリス、アデル、ソフィヤ、セレナが大きく頷きました。はい、有罪確定です。数の暴力って素敵ですよね。

 これは大罪です! まさか、ゼナ以外にもそんな事をしてもらった人がいるなんてっ!

 ……とてもいいことを聞きました。今回のデートでやってもらう事一覧へ加えておきましょう。うへへ。


「先生」

「ぷはっ、な、何だ? オルガ」

「先程のお願い、一つとは言われていなかったように思う。無限に、とは言わぬ。その……私ともお酒を一緒に飲んでいただけないだろうか? ルルにした姿勢で」

「「「「「!?」」」」」

「ん? いや、それは」

「……駄目だろうか?」 


 珍しくオルガが上目遣いになり、気弱気に尋ねます。

 これは……女の私から見ても、とてつもなく、威力が……。


「うぐっ……わ、分かった。今度、飲もう」

「今晩、お願いする」

「……旨い酒を用意しろよ?」 

「先生!」


 そ、そんなっ!? こ、こんなに簡単に、カイと約束するなんて。オ、オルガ、貴女という人は、何時からそんなに駆け引きが巧くなったんですか!?

 …………あれ? そう言えば、私はどうやってカイと、デ、デートの日時を合わせるんでしょうか? 

 昨晩までしてきた特訓はあくまでも、誘われた後の事を想定して――聞きなれた悲鳴が響きます。

 アリス達がカイを引きずって連れていったようです。オルガはきょとんとしているルルと握手していますね。

 こうしてはいられません。急ぎ対策を練らなくてはっ! 

 幸い今日は「――飛空艇内待機です」と明言されてしまいましたし。

 カイも残る、と言っていましたがあの分では……大丈夫。まだ、時間的猶予はあります。

 コーネリアに停泊する予定は、何もなければ五日間。

 

 その間に、必ずカイとデートをするのです! 

 頑張るんです、クレア・ダカリヤ。貴女なら出来ますっ!

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