『何故、俺は逃げるのか? 決まっている、生き延びる為……そう! (精神的に)生き延びる為に逃げるのだっ! 上』
「……ようやく、まいたか」
王都の名もない裏路地で、俺は一息を入れた。
あの腐れ王が投下していった超特大の炸裂魔法(と言うか、実の孫娘の幸せを考えろっ!! 俺みたいな男に嫁がすなんて幾ら何でも口にしちゃいけないだろうがぁぁ!!! ……今度会ったら全力で説教してやるっ)で燃え広がった大火災は、凄まじかった。
何しろローザもあいつ等も、一歩たりとも退く気がない。
『カイ様は……カイ様は、私の旦那様になるんですっ!』
『戯言を……!』
端から交渉の余地がなく、可燃物しかないのだ。燃えるに決まっている。
結果、燃え過ぎて、にっちもさっちもいかなくなり……取りあえず、俺は逃げた。ダカリヤの攻防戦で『真祖』達に襲われた時ばりの勢いで。
王宮の一室を命からがら脱出し逃げ回る事、数時間。今まで培ってきた、全ての技術を限界以上に絞り出してもなお、的確に追撃してくるあいつ等とローザ(彼女はあの『大騎士』直系なのだ。経験以外はクレア達に匹敵する)を振り切るのは困難を極めた。
それでも、何とか王宮を脱出し、ここまで来れたのは……前回、逃走しようとした際の失敗を活かしたからだ。追撃対策として、今回は俺自身の魔力を分け与え、魔力を極限まで絶った型と、わざと目立つ型とを作成した特製カイ君人形(お手製)をばらまいた事が功を奏した。
人形達はどうやら、全て捕まったようだが……しっかりと任務を果たしてくれた。ありがとう、人形達。お前らの犠牲は無駄にしないっ! しないぞっ!!
やはり、何事も準備が大事だなぁ、うん。
それにしても、人形に仕込んでおいて音声用の宝珠が拾ったあの会話はいったい?
『な、何ですか……何なんですか、これはっ! こ、こんな物に、ひ、ひっかかる程、私は……私は……取りあえず、壊すのもあれなので保管を……っ!』
『――クレアさん、その人形をお渡しください』
『ア、アリス……わ、渡しませんっ! これは……私のですっ!!』
『クレア、アリス、遊んでるんじゃないわよ。とっとと、追いつかないと私達でも見失うわ』
『アデル……でしたら、貴女が先程、確保したのをアリスに』
『嫌よ』
『……では、力ずくでっ!』
『大丈夫。まだいる。全員分はいないけど。早い者勝ち。オルガとセレナとソフィヤ……それと、あの泥棒猫が追ってる。貴女達はいいの?』
『『『!!』』』
……お、悪寒が。
何に使うんだ? すまない、人形達。不甲斐ない俺を許してほしい。強く……強く生きてくれっ……!
夕闇が迫っているせいか、周囲は薄暗い。
さて、これからどうするか。
緩衝地帯へはあいつ等が行くだろう。本当は手伝ってやりたいし、出来る
事ならあんな所へ行かせたくない。人跡未踏、とは言わないまでも何もないのだ。いるのは凶悪な魔物だけ。
そこを切り開いて人が住める土地にするとなるとしんどい。少女達に任せる仕事じゃない。
しかし、俺がのこのこと行けば、捕まるどころじゃ済むまい。今度こそ……喰われる。大人しい顔をしてるが、あれで興味津々なのが質が悪い。
俺よりイイ男なんて世に腐る程いるのだから、目を醒ましてほしい。
あの八人とは、大なり小なり、縁があったのは否定しないけれど……それで人生を決定する事はないのだ。彼女達には、輝ける未来が相応しい。そして、出来れば二度と戦場に出てほしくはない。
ならば……。
「する事は決まってるか」
誰もいない裏路地で呟く。
要は次の大戦開始を遅らせばいいのだ。『血斧』は良将で兵も温存している。王に対して『2年』と言ったのは、それを踏まえて、次の魔王を決める内乱があっさりと終わる事を想定したからだ。
ではその内乱が長引かけばどうなるか? 当然、人類と戦争をしている場合じゃあるまい。奴らとて、何かしらを食べねば死ぬのだ。
よし! 魔王領に侵入し、小鬼兵の指揮官級を狙い撃ちしよう。そうすれば、あの吸血鬼の生き残りや、他の種族もそうやすやすと負けはすまい。意地を見せるだろう。
俺自身の生還可能性は低いが、まぁ些細な事だ。あいつ等の命に比べれば賭けるに値する。
方針は決まった。
「行くか」
「マスターが行くなら、ゼナもついてく~♪」
「!?」
恐る恐る、後ろを振り返る。そこにいたのは猫族の少女。
馬、鹿な……俺の探知網を掻い潜って? い、いや、それよりも何よりも……。
「ゼナ、どうして俺の場所が分かったんだ?」
「マスターの匂いを辿ってきた~♪ 驚かせようと思って、精霊さんに『路』を作ってもらった~。褒めて褒めて~♪」
「おおぅ……」
そうだった……普段、ぽわぽわしているから忘れがちだが、この子とて『八英雄』の一人。同時に八人の中でも、俺が見る限り……別格。
剣技を教え、成長すれば、アリスやクレア、ルルをも超えるだろう。
魔法を教えれば、アデルを超える。
弓を教えれば、オルガを超える。
治癒魔法を教えれば、ソフィヤを超える。
召喚魔法を教えれば、セレナを超え、それこそ各属性の精霊王を召喚しかねない。
だからこそ、出来ればそういう荒事はこれ以上覚えず、育ってほしい。
血塗れになったこの子は見たくない。まぁ、それは他の七人も一緒なんだが。
ゆっくりと頭を撫でる。尻尾は上機嫌に揺れている。
「俺はこれから危ない所に行かないといけないんだ。お前を連れて行く事は――えーっと、その笛は何だ?」
「……マスターがそう言うのは分かってた。でも、ダメ。絶対にダメ。許さない」
突然、大人びた顔になったゼナが笛を吹く。
高い音と魔力の波長。マズいっ!!!
妨害は間に合わないっ。
くっ……な、なら、あいつ等が来る前に、撤退を――周囲一帯が戦略結界に包まれる。は、速過ぎるだろうがっ!!?
探知網は、既に超高速で此方を目指している七人を捉えている。
うん? ローザがいない? 何かあったのか?
い、いや、今はいい。は、早く逃げなければ……!
「この期に及んで逃げ切れるとお思いですか? それと、ゼナに甘いのは何故なんですか? 説明を求めます!」
「そうね。納得出来る説明を要求するわ。何処へ行こうとしてたのかしら? もしかして……魔王領とか言ったりしないわよね?」
「カイ、今回は私も怒っている。浮気は大罪。そして、甘やかすのは私にすべき」
裏路地を塞ぐように現れたのは、クレア、アデル、ルル。その表情は怒りに――半分だけ満ちている。残り半分は、恥じらい? あと、どうして俺の独り言を知ってるんだ?
……三人か。ゼナも含めれば四人。
逃げ切れるか?
後方に気配。数は四。
――あ、無理だわ。これ。
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