『我、窮地にあり。至急、救援を乞う』上

「――以上です。カイ、何か質問がありますか?」

「昨日の顔合わせで理解してると思うけど、冗談抜きで各国首脳了承済みだから。後は、あんたのだけよ」


 そう言ってクレアとアデルが今後の説明を終えた。

 昨日、無事に祝賀式典が終わり、その後、こちらの承諾もないまま『打ち合わせ』と称した懐かしい友人・知人――その大半が各国首脳、幹部だったり、大商人だったり――との再会を終え、疲労困憊していたところ、拉致されてこれである。

 なお、こちらの懇願――土下座含む――により『八英雄の師匠』という、御大層な肩書は公式発表される事だけは免れた。

 か、勝った……のか? 

 いや……あの悪辣さにかけて、兄と似ても似つかぬクレアがあっさりと(※それでもこちらの尊厳が致死レベルで喪われている)認めた事に違和感はあるが。

 

 それにしても……何という事だ……。

 

 この子達――余りにも、余りにも、優秀っっ!

 どうにか、提案に粗がないかを探ってみたものの――多分、クレアの原案を土台に極めて短時間で仕組まれたにも関わらず、説得力がある……。

 勿論、練り上げられてない部分は多々あるものの、それらは何とかなる範囲――と思わしてしまう。俺にとっては不幸な事に。

 魔王を討ち、戦争に勝ったとはいえ、まだまだ魔王軍は強大な戦力を持っているという現実。

 そして、その戦力が向けられた場合、最も危険なのはまともに防衛陣地が構築されておらず、そこを抜かれれば、後背地には肥沃な穀倉地帯――すなわち、人類にとっての生命線――が広がっている人類と魔族の境界地域。

 

 そこを『八英雄』が守護するのは理に適う。適ってしまう。

 

 彼女達ならば、間違いなく最小人数で最大の成果をあげるだろうからだ。

 しかも、国内にいれば必ず政争の、下手すると内乱の要素になるこの子達を外地へ出せるオマケ付き。

 下手にみんなして美人さんだからなぁ……もめるだろう、確かに。その実力もほぼ一軍に匹敵するのだし。

 しかも、凶悪な魔物多数が生息し、生半可な事では踏み入れることすら出来ない未開発地域を、彼女達が持っている莫大な資産で開発――つまり、何処の国も財政負担がない+資源等発見の情報公開までする、という二段構え。

 でも……だからといって……俺まで巻き込む意味が何処にありや!?

 

 ストレスから、さっきから膝へ座っているゼナの頭を撫でる。おお――相変わらず、心地よい撫で心地。

 本人はくすぐたったそうにしつつも、自分から頭をこすりつけて――他の英雄様達からの視線が突き刺さるぜ。

 渋々、撫でるの止めると――


「マスター、もっと♪」

「ゼ、ゼナ! い、今は大事なお話をしてるんですっ」

「セレナもマスターに撫でて欲しい?」

「へっ? え、あの、その、えっと……」


 上目遣いで、ちらちら、とこちらを見てくる左隣の席にいるセレナ。

 まったく、仕方ない――優しく撫でる。


「えへ、えへへ……」

「カイ、私も撫でるべき!」

「ルル、お前もか……」


 右隣から力強い要求。

 この子も、一見素っ気なさそうなんだけど、案外と甘えたがりなんだよなぁ……一緒に旅をしてた頃が懐かしい。

 手を伸ばそうと――その空間をケーキナイフが通過し、壁に深々と突き刺さる。 いやいや……あり得ないだろうが……。

 視線をやると、アリスが微笑を浮かべたままこちらを見ていた。


「――カイ様、余り節操がないのは駄目です」

「ハイ……」


 怖っ!

 当代の勇者から発せられた静かな怒気は、俺如きが対抗出来るものでなく、ゼナとセレナから手を外し、両手を上へ。

 当方、抵抗の意思はありません。穏便な御対処を――。


「そろそろ、茶番は良いですか?」

「はぁ……幾ら何でも、小さい子から手を出すなんて……付いていくの止めようかしら……流石に変態と一緒に暮らすのは躊躇するわね」

「――アデルさん、それでしたら残られても良いですよ? カイ様には私達が」

「そうだな」

「カイと一緒なのは大変。是非、そうするべき」

「えっとえっと、嫌な事はしない方が良いと思います!」

「あ、あんた達ねぇぇ……」


 クレアから絶賛猛吹雪な視線。

 その傍らに立っていたアデルは周囲からの指摘に身体を震わしている。

 ……膝の上からは寝息。うん、退屈だもんな。


「み、皆さん! 今は、そういう話をする時ではありませんよ。カイ様――お考えをお聞かせ下さい」


 ソフィヤがこちらに話を振ってくる。

 ……その前に手をおろしても? はい、ありがとうございます。


「概ね理解はした――正直言って、よくもまぁ考え付いた、と思う。ただなぁ……」

「何です?」

「何よ?」

「俺が一緒に行く意味」

「あります」

「あるわね」


 クレアとアデルが言い切る前に否定してくる――くっ、だ、だがきっとこの中には俺がいなくても良いと思ってる子も……


「――カイ様、ここにいる八人は、貴方様が仮に『世界を欲しい』と仰ったら本気で実行すると思いますよ?」

「ははは――嬢ちゃん、冗談が上手くなった……クレアさん?」

「…………世界が欲しいんですか? それなら、最初からそう言っておいてほしかったです」

「ア、アデルさん?」

「土地を支配するのは古臭いわよ。経済を支配するんだったら――そうね、3年位で」

「ソ、ソフィヤさん!」

「還俗した身ですけど――カイ様の為でしたら、今一度戻って支配しても構いません」

「ルル……いや、いい。聞いた俺が馬鹿だった」

「むぅ、カイは意地悪」


 その他の子達も目が本気である。

 な、何が彼女達をそこまでさせるのか……こちとら、しがない自由人なのだが……。

 


 取り合えず分かった事――これ、どっちみち拒否出来ない流れじゃない?

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