『残念だけど、人違いですっ!!』乱
「ごめんなさい、私もです」
「無理」
「すまない、私も助力することは出来ない」
「えっと、えっと……ごめんなさいっ!」
「がぅがぅ」
「ゼナもやだっ!」
アリスに続き、みんな(セレナの頭に乗っかっているリタまで)が不参加を表明していく。
――これって……そういうことよね?
断れると思っていなかったのだろう、クレアは茫然としている。
そして、唯一意見を表明していない私へと視線を向ける。
手を軽く振り答えた。
「悪いわね。私も参加出来ないわ」
「アデル……」
「勘違いしないで。クレアのことが嫌い、とかそういう理由じゃないのよ――もっと面倒な事だと思うわ」
「面倒……ですか?」
「薄々気が付いているんじゃないの? みんなもそうよね?」
話を他の子達にも振る。
……私の想像通りなら、これからの話は揉めること必至。
一緒に死線を潜り抜けたから分かっている。
この子達は絶対に退かない――自分の決意したことなら尚更。
「――クレアさん、カイ様は私にとって大切な方です。ずっと、ずっと探していたんです。あの方が私に剣を教えて下さったんです」
「アリスさんもですか? 私は回復魔法を教わりました」
「カイは命の恩人」
「先生は、私の目を覚まして下さった」
「えっと、えっと、カイさんは私とリタにとって、かけがえない人なんですっ!」
「がぅ!」
「ゼナのマスター♪」
「な、な、なぁぁ!??」
クレアが今まで見た事ない位に動揺している。
中々面白いわね。普段、冷静だし。
……あのバカは一体何人の被害者を生み出しているのかしら!
まさか、私達全員に手を出しているなんて――でもようやく尻尾は捕まえた。
――逃がすつもりはないわ。
「そういうことよ、クレア。貴女に協力は出来ないわ。むしろ事態はもっと複雑だと思うわよ?」
「――この件に関しては、皆さんと恋敵になる、そういう理解で間違いないですか? 私は、カイ様以外の人を考えたことはありません」
「こ、恋敵……! うぅ、だ、だけど、私だって同じ気持ちです!!」
「むぅ、私は一年以上も一緒だった。泣く前に諦めるべき」
「言ってくれるな――私とて隠れ里で、数ヶ月間、寝食を共にしていたのだ。私の魔銃も先生から頂いたのだ!」
「えーえー、オルガさんいいなぁ……でも、でも、カイさんは私とリタさんのですっ!」
「がぅがぅ!」
「マスターとゼナは、あね様公認~♪」
「……あいつは、一体、何をやらかしてるんでしょうかねぇぇぇ」
みんなの告白を聞いた、クレアが机に突っ伏した。机を叩いている。
その行動、理解出来るわ。
幾ら何でも私達全員から想いを寄せられる男がいるなんて、考えもつかないものね。
それにしても……ゼナの一言が気にかかる。
「ゼナ、ちょっといいかしら?」
「うん」
「あね様公認と言うのは――」
「婚約者? ってあね様は言ってたよ?」
「「「!?」」」
「そう、ありがと。さて――」
ゼナ以外の六人を見渡す。
視線で会話。
(――拙いですね)
(ゼ、ゼナのお姉さまは確か猫族の女王様では?)
(むぅ)
(公認となると――)
(えっとえっと……捕まえて逃げちゃいますか?)
(がぅ!)
(駄目よ。本当に婚約してるなら大事になるわ。それにゼナが泣くわよ?)
(……全部全部、あのバカがいけないんです……)
本当だとすると――私達にとって極めて不利だ。
今の段階であいつと私達との間に公的な関係性はない。
だけど――指をくわえたまま、状況に流されるだけなんて、私の趣味じゃない。
まして諦める? あり得ない。あいつには――カイには私の隣にいてほしい。
何か――何か打開策は――あ
「クレア、さっき言ってた模擬戦で勝ったらどうするつもりだったの?」
「え……? そ、それは……」
「言いなさい。多分、それが打開策よ」
「……カイとその、あの……」
「クレア?」
「……人類と魔族の境界地域をもらって一緒に暮らそう、かなって……」
「「「へぇぇぇ……」」」
「……い、いっそ殺して……」
御大層な事を考えていたのね。
あんな紛争地帯、誰も欲しがらないだろうし、何より生息している魔物が狂暴で普通あそこで暮らそうなんて――いけそうね、これ。
「さっきの発言は撤回するわ、クレア。その代わり――私も一枚噛ませなさい。どうせ、各国との本格折衝はこれからなんでしょう?」
「――私もです。その案に賛同します」
「い、一緒に暮らす――良いです――」
「むぅ、仕方ない」
「そういう事なら異論はない」
「えっと、えっと、私も!」
「がぅ!」
「……皆さん、手の平を返すのが早過ぎません?」
「最高じゃないにせよ、最良だと思うわよ? ゼナ、貴女はカイと私達と一緒にいたくない?」
「マスターとみんな一緒? 嬉しい♪」
「だ――そうよ? クレア、後は貴女次第だけど?」
「…………そんなの――乗るに決まってます! ふふ……あの男に吠え面かかせてやりましょう!!」
よし! なら後は簡単だ。
誰も欲しがらない厄介な土地を手に入れて、あいつの存在を各国に認めさせるだけ。
一部の首脳陣とも知己なのだろうし、骨龍討伐の実績は大きい――ゼナのお姉さんとはじっくりお話をしないといけないけどね。
私達に対して面と向かって文句を言える人はいないから、理由を聞かれたら「この身を犠牲にして魔族を牽制する」とでもでっち上げればいい。
問題は多少インパクトにかけることかしら? 説明する時、面倒だし。
何か良い呼称は――そうね。
『八英雄のお師匠様』。こう説明するとしましょう。うん、分かりやすい。
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