『残念だけど、人違いですっ!!』➂
「さて――どうしますか?」
私は、目の前にいるカイに尋ねました。
どうやら、逃げ出そうとしていたようですが、そんな事はさせません。
今日こそは勝ちます。
勝って、私の――否、私達のお願いを聞いてもらうんです!。
「い、幾ら何でも1対5は反則じゃないか!? しかも、何なんだその連中は。皆が皆、手練れってレベルじゃねーぞ! 天下の『聖騎士』とほとんど同等とか……ど、何処から連れて来たっ!?」
「あら? 貴方は何時も言ってます。『勝てば官軍』って」
「ぐぐぐ……い、言い返せん」
「別にここで終わっても良いですけど。お願いは当然聞いてもらいます」
「…………分かった。ここまできたら徹底抗戦しちゃる! ふ、ふん。虐めに走った騎士とその仲間なんかには負けん!!」
「強がっても、戦力差は埋められませんけど」
とは言うものの、警戒します。
この男、正直底が知れません。
今までの連続攻撃を凌いで見せた時点でちょっとオカシイのですし。警戒するに越した事はありません。
愛剣を握り締め、隣にいる彼女へ目配せ。
(私は手数。貴女は重さで勝負を)
(了解)
私が少し前へ。
――仕掛ける、そう思った矢先、突然疾風の如き乱入者。
全身に風の精霊を纏わせて彼女は突貫。両手に美しい短剣。
あ、ちょっと、まだタイミングが早いです!
虚を突かれたのは私だけじゃなく、彼も同じ。
弦を展開する前に、接近される。表情には焦り。
「なっ! 精霊魔法使いは普通後衛じゃないのかよ!?」
「~♪」
楽し気に彼へ挑みかかっていく彼女。
外套の下から覗く、尻尾は機嫌よさげに振られています。
少し苦笑しながら、私達も距離を詰めます。
同時に、戦友たちと通信魔法で最後の打ち合わせ。
(少し予定が狂いましたが――ここで勝負をかけます。準備は大丈夫ですか?)
(既に構築は終わってるわ。何時でも大丈夫よ。ただ、支援は出来ないからそのつもりで)
(こちらも魔力は溜まった。すぐにでも射撃可能だが、狙撃は出来ない)
(祝福の準備も終わってます)
(い、今、そちらの丁度真上です)
(――タイミングはお任せします。でも、本当に大丈夫なんでしょうか?)
彼女の懸念はもっともだと思う。
何せ、これからやろうとしてる事は、私達の最大火力攻撃なのだから。
つまり『現時点で人類が繰り出せる最大火力』ということ。
普通の人間なら、跡形も残らないでしょう。
だけど、私にあったのは確信。
(大丈夫です。それ位しないと――彼には届きません。タイミング、此方でお伝えします)
そうです。この男は間違いなく強い。ならば全力で挑むべきなのです。
事故があっても大丈夫。私達には彼女がついているのですし……多分。
必死になって逃げ回っている彼に追いつきます。
それにしても、風の精霊を纏って速度に特化している彼女の攻撃を――多少は弦で防いでいるんでしょうが――よく無手で凌げるものです。
私も連続で斬撃。その悉くを回避され、弦でさばかれます。
私達が少し下がった瞬間、斧の一撃。これも回避されます。
少し距離を取った彼の雰囲気が変わりました。
何時になく沈痛な表情。
「これは……面倒だから本当にやりたくなかった……」
「しぶといですね。そろそろ負けを宣言しても良いのですよ」
「ま、まだ負けん!」
そう言うと彼は、弦の展開を止めました。
「言ってる傍から諦めたんですか。まぁ良いです。止めをさしてあげます」
「……これ、模擬戦だからなー。生死関係なく、じゃないからなー」
「大丈夫です。頭さえ残ってれば再生できるって、兄さんが言ってました」
「よ、ヨハン! お前は俺に何の恨みがあるっていうんだ……」
泣きそうになっている彼。少し可愛……こほん。
「まぁいい。生意気なお前達には教育的指導だ!」
「……犯罪行為に手を染めるなんて」
「ち、違うから! そんな事言ったらこの模擬戦だって似たようなものじゃ」
「これは違います。正当な戦術です。貴方の言葉は犯罪です」
「ひ、酷い」
「冗談はこのへんにしておいて――勝たせてもらいます」
「やってみろ」
だから、その時折見せる真面目な顔はダメです。禁止です。
頬が赤くなりそうになりますが、それどころではありません。
愛剣を構えなおし、彼女達に目配せをします。うん、勝ちましょう。
「――いきます」
「こい」
私達は魔力で身体強化。後先考えず全力で行います。彼女からは風の精霊魔法による支援ももらって速度を更に上げます
そして、一気に距離を詰め三人同時に渾身の一撃を繰り出しました。
が――彼は何時も行う回避行動をせず、私達の攻撃をそれぞれ、二本ずつの『蒼い剣』で受け止めました。
こ、これは!?
「まさか、貴方が弦と呼んでいた物は」
「バレたか。いや、実際に実物も使っているんだぞ? ただ、全部じゃないってだけだ」
「くっ……この期に及んでそんな事実を報せるとは、鬼畜ですね。魔力で剣を構築するなんて。この変態!」
「き、鬼畜……へ、変態って……」
「う~!」
彼女が少し距離を取り、精霊魔法を高速展開し始めます。
切り結んでいても突破は不可能と判断したのでしょう。おそらく、その判断は正しいです。
ならば、私達がすることも自明。
妨害をしようとする彼が繰り出す剣から彼女を守ります。
「その魔法はヤバイな。止めさせてもらう!」
「させません!」
「はっはっはっ。悪いが物量で圧倒してやろう」
そう言うと、彼は剣の数を倍加させました。
「き、汚いですよ。何ですかそれは」
「先程の言葉をそのまま返してやろう。『勝てば官軍』なのだよ、クレア君」
勝ち誇る彼――そろそろでしょうかね。
「まずは、お前達からやっつけて、後衛はその後だ。何かヤバイ魔法を組み上げているみたいだが……なに、人間の盾を用いれば凌げないことはないだろうからなぁ。グヘヘ」
「屑な台詞です。転生して、砂粒から――いえ、無からやり直して下さい」
「……なんか、ほんと今日あたりが厳しいと思う。まぁ、これを出したのはあの骨龍以来だ。大したもんだよ、ほんと」
「もう――」
「うん?」
「もう、勝ったつもりですか! だから、貴方は甘いんですよ!!」
瞬間、私は炎弾を展開、全力で彼に向って投げつけました。
彼の表情は驚愕。
そうでしょうね。半年前まで私は身体強化以外の魔法なんて一切使えなかったんですから。
着弾する前に『剣』で阻まれます。だけど――
「今です!」
私の合図で、皆が一斉に動き始めます。
高速展開された精霊魔法――風属性最上級魔法が発動。
慌てて回避しようとする彼の足場を土属性を込めた斧の一撃で寸断、拘束。
精霊魔法に合わせ、私の炎弾よりも遥かに巨大なそれが合流――巨大な炎の竜巻となって彼に襲い掛かりました。
何とか押しとどめようとする彼に、複数の魔弾が着弾。ほとんどの『剣』が砕かれます。
「ちょっ。あれを砕くって何なんだ、この魔弾は。お、お前、これ洒落にならんぞ!?」
「大丈夫ですよ」
「何がだ! 死ぬ、死んじゃうぞ!」
「まだ終わってませんから」
「――神よ。どうか彼女達に目的を達する為の力を与えたまえ。そして彼の人を救いたまえ」
彼女の祝福が聞こえてきます。
上空から、巨大な何かが急降下してくる気配。もう少しです。
「ま、負けんぞぉぉぉ!」
彼が『剣』を数本再展開。流石に全てを回復するのは無理なようだ。
一体何を――炎属性だけ散らしている?
「な、なんて滅茶苦茶な」
「ハハハ。炎は死ねるが、風なら何とかコントロール出来る……と、良いなぁ……」
と言った瞬間に、炎が消えて竜巻に彼が飲み込まれます。
そして一気に上空高く運ばれてゆきました。
――予定通りです。後は彼女にお任せしましょう。
何とか炎の竜巻は凌いだ。死ぬかと思った。
まだ、心臓がバクバクしている。
(一度、本気で言わないとな。あいつ、俺を不死身、だとでも思ってるんじゃないか……普通、死ぬぞ。何やら、祝福が途中かかっていたみたいだから、多少はなんとかなったのかもしれんが)
腕組みしながら黙考。
現在、竜巻に運ばれ訓練場上空。そして、まだ体は上昇中。
はて――何やら此方へ急降下してくる。おかしいな、目が悪くなったか……。
王都上空に真龍なんている筈がないんだが。
そんな事を思っていたら、その背中から人が飛び降りるのが見えた。
一直線にこちらへ向かってくる。
(あ~これはヤバイ)
何せ、空中である。まともな回避行動なんて出来る筈もない。
それでも、『剣』を無理矢理再構築。
迎え撃たんと――真龍から容赦ないブレス。
『剣』の全てを喪失。
(いやはや……これはまいったまいった)
金髪をなびかせ、此方へ接近してくる少女を俺は苦笑しながら見つめ、腰の短剣に手を伸ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます