6.For ourselves


「な、なんだこれ…」


突然現れた白いロボを見上げ呆気に取られる祐樹。

また新しい誰かがやってきたのか??俺たちを助けてくれたのか?でもなんで攻撃されるのを分かってたかのように俺たちの前に現れたのか?いや、もしかすると怪物がやりすぎたのを叱りに来た敵?

いろんな思考が頭を交差する。


「おい祐樹!!」


その思考を止めるかのように後ろから声がし、振り返るとそこに雄二が息を切らして立っていた。


「大丈…、それって…」


祐樹の奥に立つロボを見て、唖然とする。


「どうやら…味方らしい」


再びロボの方を見て言った。

そう言う祐樹が抱きかかえている人を見て雄二が焦って近寄ってくる。


「うそだろ…そんな…」


雄二は膝から崩れ、茜の顔に震える手を近付ける。

祐樹はそっと雄二に預ける。


「こんな別れ…嫌だよな…」


「そんな…うそだろ…おい…茜…」


雄二は涙を流しながら茜に呼びかけていた。

それでも反応はない。

雄二も祐樹同様茜を抱きしめ、泣いた。


ふと祐樹がロボに目を向けると、それに気づいたかのように手を祐樹に差し伸べる。


「…乗れってことか」


でも操作はどうやって??俺まで死ぬかも知れないぞ?戦い方だってわからない。

また余計な思考が頭を交差する。


「…あーもう!!!」


それでも祐樹の思いは一つ。


茜の仇を討ちたい。


「はぁ、やっぱ考えるの苦手だ…」


そう言って祐樹は立ち上がる。


「どうした祐樹…」


涙で顔が濡れた雄二が祐樹を見上げ問いただす。


「雄二…茜のそばに居てやってくれないか?」


「何を言ってんだ…」


祐樹はロボの手のひらに乗る。


「あいつをぶん殴ってくる。」


「ぶん殴ってくるって…そんなことしたらお前まで…!」


「安心しろ」


祐樹は首をすこし後ろに向ける。


「俺は死なない」


そう言って祐樹は微笑んだ。


そんな根拠なんて全くない一言は、なぜか雄二の心を安心させる。

ああ、あの頃の祐樹だ…。

そう心で思いながら雄二は頷く。


祐樹はゆっくりとコックピットに近づく。胸元付近で腕の動きが止まり、胸部のハッチが開いた。


しかし祐樹はその最後の一歩を踏み出せずに居た。

自分は今からとんでもない世界に踏み入れようとしているのかもしれない。

死がすぐそこにある世界に。

それでも祐樹は覚悟を決める。


「簡単な話だ。…俺はこいつに乗って、あいつをぶっ殺す…、それだけだ…」


まるで自分に言い聞かせるように呟き、コックピットへと飛び乗った。


座席に座るとハッチが閉まる。

中は真っ暗で周りを見渡しても何も見えない。


「おいこれ…動くのか…?」


呟いた瞬間、パッと明るくなり、様々な機器が起動しだす。


「おお!?なんだ!?」


目の前のモニターに様々なウィンドウが次々と出てくる。

そして最後に出て来たウィンドウには


Start-up

JENES


と書かれていた。


「お前、ジェネスっていうのか。」


もちろん返事はなく、機器が作動している音だけが響く。


「力を貸してくれ…、あいつをぶっ殺す…力を俺に…」


そう呟いた途端、ウィンドウが全て消え、一つだけ新たにウィンドウが現れる。


WORKING


「わ、ワーキング??」


すぐにそのウィンドウが消えると天井、正面、両壁のモニターに外の景色が映し出された。

教えられなくても祐樹は分かる。

俺はこいつを動かせる。

これであいつを殺せる。と


「さぁ、覚悟しろ!!!」


そう叫んで、祐樹は操縦桿を押し込んだ。




オーバーシアは怪物と戦っていた。

予想外の装備、エネルギー弾に苦戦を強いながらも、着々と攻撃を重ねる。


「さっきより動きが鈍いようだが、"アレ"に動揺してるのか?」


「うるせえ、黙って死んでろ!!!」


エネルギー弾を乱射する。

オーバーシアは刀を使い、受け流したり切って消したりと回避する。


「ちゃんと狙わないと当たらないぞ」


一気に距離を詰め、懐に入る。


「この距離ならあたんだろ!!!!」


怪物がそう言うと胸元の穴からエネルギー弾が放たれる。


それをモロに受け後ずさる。


「チィ…めんどくさい野郎だな…」


「死ねえええええ!!」


肩の無数にある発射口を一つに絞り、より強力なエネルギー弾を発射しようとする


「…!?スタン機能つきだと!!」


回路機器が一時的な停止をしており、オーバーシアは動けない。

怪物はそれを見て嘲笑う。


「量産機だとここまでか…」


緊急脱出を視野に入れた時、目の前の敵が何者かに飛ばされるのが見えた。

そこには先ほどの白い機体、ジェネスが立っていた。


「動いている…」


「なぁアンタ…、こいつは俺にやらせてくれないか?」


「その声は…あの少年か…!?」


オーバーシアは聞くものの、ジェネスは聞く耳を持たず、飛んでいった敵を追いかける。


「お前だけは許さねえ!」


敵に詰め寄ったジェネスは拳を何度もぶつける。


「あいつを…!!茜を…!!!」


右手に力を込める。


「返せ!!!」


頭部に拳をぶつけるとそのまま頭部が吹き飛び、敵の機体が停止する。


それでもジェネスは攻撃をやめない。


「や、やめてくれえ!降参だ!!もう降参だ!!」


敵のパイロットが乞うものの、聞く耳を持たず殴り続ける。


「俺はお前を殺すまではやめない!!」


そういって拳を振り上げると腕部のパーツから蛇腹状の物が現れ、ワイヤーで引っ張られると、ブレード状の武器なった。


「死ね!!」


その武器を敵のコックピット部分に突き刺そうとした時、横から何か撃たれ、ジェネスは横に倒れこむ。


「そこまでにしろ!それだとお前もそいつと一緒になるぞ!」


そう言われ、我に返り力が抜ける。


「そうか…こいつを殺しても、戻ってこないもんな…」


ジェネスは両膝をつくように座り込んだ。


オーバーシアが残骸となった敵に近寄る。


「一緒に来てもらうぞ。」


「は、はい…」


死の恐怖を目の当たりにした敵のパイロットは素直に応じ、連行されていく。


「俺は…ただ…」


「少年、君も来てもらう…、いいかな?」


そう言われるが何も言わず、ただ頷くだけ。


そして三つの機体は転送され、そこには瓦礫の山だけが残っていた。


「あいつが…昔のままのあいつがやってくれたよ…」


この一連の出来事を茜を抱きしめたまま見ていた雄二が、茜をとりあえず安全なところに連れて行こうとした時だった。


「ん…ん…、ゆう…じ…?」


えっ?と呟き茜を見る。

苦しそうな顔をしながらもゆっくりと開く目。


「茜!?茜!!!よかった…ほんとによかった…!!」


すぐに到着した救急隊によって、2人も無事に保護された。









「うん、上出来だね」


第3西高校の遥か上空、そこには不穏な黒い影が。

静かに呟いた影は、風のように消え去った。





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