5.Start-up



あまりにも現実離れした景色にクラスが静まり返る。


窓から見つめるそれは、目線を祐樹からクラス全体に移した。


それをみた祐樹は何かを察する。


「みんな!!!逃げろ!!!!」


そう叫ぶと徐々に教室が悲鳴で埋め尽くされ、生徒たちが慌てて教室を出ようとする。


目線を怪物に移すとすでに拳を構えていた。


「おいおいまじかよ!!」


「祐樹!!!早く!!!」


教室のドアを向くと雄二が、腕を使ってこっちに来いとジェスチャーしていた。


それをみた祐樹は、椅子に足をぶつけながらも急いで教室の外を目指す。


逃げる途中チラッと後ろを見ると怪物がすでに拳がこちらに迫ってきていた。


それをみて咄嗟にドアの外に向かって飛び込んだ。


大きな轟音を立てながら拳が教室を破壊していく。


間一髪のところで逃げることが出来た祐樹は雄二に起こされ、廊下を走り出した。


校内では教師による緊急避難の放送が響いている。


「なぁ!アレってこないだの…!」


雄二が走りながら祐樹に聞く。


「たぶん!!!同じだと思う!!」


息を切らし、後ろをチラチラ伺いながら祐樹は答えた。


「あった!階段!」


不幸中の幸いか、3年の教室は二階。降りればすぐに玄関があり、外に出られる。


よかった…


まだ助かったわけでもないのに、そう安堵したのも束の間、後ろで破壊する激しい音と揺れが襲う。


「やべえって!!!祐樹早く!!!」


「全力疾走とか中学の体育祭以来だわ!」


階段を足を滑らせながらも降りていく。


玄関から運動場にでるものの、靴に履き替える余裕なんて全く無く、上履きのまま、外に出る。


外にはすでに全校生徒が集まっており、先生達が点呼を取っていた。


自分のクラスの列に来た2人は点呼に反応する。


突然の出来事に泣いてる女子生徒や、余裕があるのか面白半分に話す生徒、全校生徒がざわついていた。


その時、クラスメイトの1人が発言する。


「せ、先生!茜ちゃんが…木之本さんが…!!!」


ハッとなり祐樹は周りを見渡す。


「いない…?」


そう思った祐樹は無意識のうちにまた校舎に向かって走り出していた。


「おい祐樹!!何してんだよ!」


雄二の声も届かず、祐樹はまた校舎に入っていった。







施設のトレーニングルームのランニングマシンで、緑川はトレーニングをしていた。


服がピッタリ体に張り付くまでの大量の汗をかきながらも、止まることはなく、ただ走り続ける。


そして10キロ到達のアラームが鳴ると機械を止め、マシンから降りて水分を取る。


水を流し込んでいる時だった。携帯がなり、手に取り確認すると局長から。


「緑川くん!緊急事態だ!!!アグノの反応があった!!場所は第3西高校!!今すぐ行けるかい!?」



「分かりました。すぐに出撃します。」


電話を切るとすぐに巻島に電話をかける。


「わかってるよ。すでに転送準備を始めてる。メンテナンスも完璧。」


電話にでると巻島がそう言った。


「ありがとうございます。いまからそちらに向かいます。」


緑川は着替えずタオルだけを手に取りトレーニングルームを後にした。





「頼む…どこにいるんだよ…!」


祐樹は瓦礫で散乱した廊下を小走りでキョロキョロと周りを探していた。


自分のクラスの前に着き、恐る恐る中に入る。


机や椅子、窓ガラスが無造作に散らかっており、歩いて回るにも一苦労だった。


「おい!!茜!!どこだ!!!」


しかし反応はない。


ふと何気無しにもともと壁があった窓際の方に寄る。


外を見ると怪物が校舎とは反対側をみて雄叫びを上げていた。


「なっ、まだいやがった…!」


逃げようとした時、その怪物がこっちに振り向く。


そして、探し物を見つけた喜びのかのように再び咆哮をあげ、こっちに向かって走りだす。


「おいおいおいおいまじかよ!!!何やってんだよこないだの人たちはよ!!!」


そして拳がこちらに向けて出された時、怪物が横に吹っ飛ばされる。


そして吹っ飛んだ逆の方向からオーバーシアが現れる。


「アンタ…!」


オーバーシアがこちらを見る。


「君はこのあいだの… 」


会話をしている暇はなく、怪物が雄叫びを上げながらオーバーシアに体当たりをしかける。


オーバーシアはすかさずバックステップをし、持っていたアサルトライフル型の武器を放つ。


しかし、弾は掠る程度で弾き返される。


「くそっ!強化されてるのか!」


体当たりをそのまま受け、押し返される。


「ザコ風情が…、調子に乗るなよ!!!」


膝蹴りを腹部に当て、怪物の体が少し浮き上がる。

すかさず回し蹴りを当て、吹っ飛ばす。


砂埃が徐々におさまり、そこにはまだ立ったままの怪物。


「ザコの割には中々タフだな」


そう言いアサルトライフルを捨て、背部に設置された刀型の武器を抜く。


「千切りにしてくれる。」


そういうとオーバーシアは、巨大なロボとは思えないスピードで怪物に突っ込む。


だが怪物の肩アーマーからエネルギー弾が発射され、すぐに足を止められる。


「チッ、小賢しい。」


エネルギー弾の一つが自分とは全く別の方向に飛んでいくのが一瞬見えた。


「どこに…、まさか…!!!」


飛んで行った方向を見ると校舎、そしてそこには祐樹の姿。


「え?えええ!?」


凄まじい勢いで飛んでくるエネルギー弾に為す術なく、着弾する。


幸いにも直撃しなかったが、衝撃で外に飛ばされる。


「うわああ!!!」


二階からの高さ、さすがに軽い怪我ですまないだろうと思ったが幸運にも瓦礫が積み重なって、そんな高さもなく着地した。


「貴様…どういうつもりだ…。こないだもそうだ。まさかあの少年を狙っているのか…」


「……さぁな…」


初めてその機械仕掛けの怪物から声が出る。


「てめえに言う筋はねえ。」


「やっとしゃべったな。今日は有人というわけか。道理で動きが違うわけだ。」


「ゴチャゴチャうるせえ!!」


そう言い怪物は再びオーバーシアに向けてエネルギー弾を発射する。



「いてて…」


少し身体を打っただけで済んだ祐樹は起き上がった。


「いや、危なかった…」


そう言って瓦礫を見る。


「…え?」


瓦礫の隙間から見える倒れこむ少女。

それをみた祐樹の呼吸が乱れだす。


周りの持ち上げられる瓦礫をどかし、確認する。


「茜…?おい!茜!!」


茜を抱き上げ、顔についた泥を落とす。


「おい!目を覚ませって茜!おい!」


反応はない。


「うそだろ…!そんな…、そんなあ…!!」


祐樹は茜を抱きしめ、涙を流す。

そしてすぐに祐樹の心が怒りで溢れ出す。


「許さない…、許さない…!!!」


涙で充血させ、怒りに満ちた目を、その怪物に向けた。






局長室。


数台あるモニターの中の一つがオーバーシアの戦闘を映していた。


他には、Active、waiting、working、no signalなどと書かれた何かの画面などがあった。


真剣な眼差しで戦闘を眺める局長。

その横には同じく画面を見つめる上内。


「今回…予測反応が無かったが、原因は?」


局長が上内に聞く。


「はい、何度も確認しましたが装置にはなにも異常は見当たりませんでした。」


「ていうことは向こうも本格的に動き出したか…。してやられたね。」


別のモニターではニュースでその様子が生中継されていた。


「局長、いくつかの管理局の方からお電話が。」


「今回の件は追って正式に会見を開くと全員に伝えてくれ。」


「わかりました。」


そう言って上内が部屋からでる。


それと入れ替わるように巻島が息を切らしながら入ってくる。


「局長!!!!」


「ど、どうしたの…」


巻島は息を整え、深呼吸をした。


「例のアレが…"ジェネス"が突然起動を…」


「何っ!?」


焦ってモニターを見る。


「どういうことだ…」


画面の1番左端にある"Genes"の文字の下には、"WORKING"の文字。


「えっ!?出撃シークエンスは取っていないのに!」


「じゃあ勝手に1人でで出撃したのか…!?そんなこと…」


局長は携帯を手に取り椅子から立ち上がり、ドアへ向かう。


「後は任せてくれ!上内くんか…」


電話をしながら部屋を出た。





「危機一髪か。」


祐樹の生存を遠目で確認したオーバーシアは刀をギュッと握りしめた。


「再開だ、気持ちよく殺してやる」


フンッ


そう、鼻で笑った怪物は突然地面を叩きつける。


砂埃でオーバーシアは視界を奪われる。


「クソッ!」


砂埃から避けるようにバックステップを取るオーバーシア。しかしそこにはもう敵の姿は無かった。


「まさか!!」


校舎の方見るとさっきまでとは全く違う速さで突っ込む敵の姿。


「やはりあいつが狙いか!!」


急いでオーバーシアも後を追うが、距離が縮まらない。




何も言わず突っ込んでくる怪物を睨む祐樹。


「…やる…」


ボソッと呟く。


そして茜をギュッと抱きしめる。


「お前を…殺してやる!!!!」


「死ねやあああああ!!!」


怪物がそう叫びながらエネルギー弾を放つ。


それでも祐樹は睨んだまま動かない。


「俺がお前をぶっ殺してやる!!!!」


そう叫んだ瞬間、エネルギー弾が着弾した。


「そんな…」


オーバーシアが悲哀に溢れた声で呟く。

それでも速度は緩めずに追う。


しかしすぐに二体の足が止まる。


「な、なんだお前は…」


2人の目の先には白い機体が腕をクロスさせ、立っていた。


「あれは…ジェネス…、なぜアレがここに…」


腕を緩めたそれは祐樹と茜を守っているかのように、勇敢に立ち尽くしていた。


















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