3.To "the day"

「徹夜明けは流石にキツイな…」


自室の浴室で熱いシャワーを浴びながら彼は呟く。


一つため息をつき、シャワーを止め、浴室を後にした。


近くに置いていたタオルを手に取り拭き取り、衣服をなにも身につけずタオルだけを腰に巻きキッチンに向かう。


冷蔵庫を開け、キンキンに冷えた水を取り出し、それを一気に流し込んだ。


キッチンを後にし、寝室へと向かい、スーツに着替えを済ませる。


特に荷物を持つことなく、玄関へ向かう。


自動式のスライドドアが開くと、そこはもう彼の職場の住居エリアのフロアだった。


「あら、緑川さん。おはようございます。」


タイトスカートのレディスーツを身に纏ったお姉さん臭が漂う女性に話しかける。


「上内さん、おはようございます。」


緑川と呼ばれた男は丁寧にお辞儀をする。


「今からですか??…あ、また徹夜したでしょ??」


話しながらも2人は同じ方向に歩き出す。


「ええ、まぁ。少し気になることがありまして…」


緑川は苦笑いを浮かべる。


「仕事熱心なのもいいですが、ちゃんと休まないとダメですよ!!」


上内が緑川の顔を見て、ムッとして言う。


その後も他愛ない話をしている内に、2人共通の目的地に到着した。


扉の前には「局長室」の名札。


ドアの横にあるインターホンのボタンを上内が押すと、声が聞こえてきた。


「ほーい、局長でーす。ん?あ、上内くんか。」


「本日のスケジュールの確認に。それと緑川さんも来ております。」


「はいはい、入って…あ!ちょっと待って!!!」


スピーカーの奥で激しい物音が聞こえる。


「まさか…」


上内は局長の制止も聞かずに、社員証をロックに通し中に入る。


中には大量のバランスボールが跳ね回っていた。


「局長!!!!また買ったんですか!!!バランスボールばっかり買って!!その趣味よくわからないんですけど!!」


局長が苦笑いを浮かべる。


「いや、なんか…好きなんだよね…バランスボール」


ハハハ…と漏らし、場を和ませようとするが、上内の怒号が響く。


「そ、それで!?ど、どうしたんだい!?緑川くん!!!」


話を捻じ曲げようと突然緑川に話しかけたため、緑川は一瞬困惑する。


「あ、あー、先日の報告書を」


「そ、そうか!ありがとう!!!」


横で上内の怒号を受けながらも、報告書を受け取る。


「また目にクマ作ってるね。徹夜かい?」


緑川の顔を見た後、報告書を眺めながら言った。


「ええ…先日の"戦闘"の処理自体は終わっていたのですが…、例の"森"のことが気になって調査を…」


メガネを取り、目を揉みながら答える。


「そんな、それは調査員の人たちに任せときなよ。」


報告書を軽く流し読み終わった局長は、デスクに戻り、椅子に座る。


「はい…気になってどうしても自分でも調べたくてつい…。」


メガネを掛けなおし、局長をみる。


「まぁ、確かに、不自然なところが多いからね、気になるのはわかるよ。」


「今日さっそく調査団と一緒に私も行ってみます。」


「うむ、特に仕事はないからいいよ。でもあまり無理しないように」


それでは。

そう言って振り返り、ドアへ歩き出す。


後ろではまだ上内の怒号が響いていた。





「どんな感じですか」


緑川は局長室を出た後、とある場所に来ていた。

建物の地下にある、巨大施設。

そこにはあるものが格納されている。


「こないだの戦闘の破損やらは修繕したよ。」


「いつもありがとうございます。巻島さん」


そう呼ばれた男は緑川の方を見てニッと笑う。


「いいの、いいの。これが仕事だからね。それで?今日も出撃かい?」


緑川の方に体を向け、問いかける。


「いえ、戦闘ではありませんが、念のためにこいつも連れて行きたくて。」


2人が同じ方向を見上げると、そこには20mもあろうか、"緑色のロボット"が、様々なメンテナンス機器に繋がれた状態で立っていた。


「あー、例の森のアレかい。」


「はい、そうです。調査団と一緒に」


「確かに、色々と謎だもんねえ。森の中だと大型は使えないね。小型の武装に変えとくよ」


「よろしくお願いいたします。出発の時間がわかり次第また連絡します。」


「はいよー!」


緑川は丁寧にお辞儀し、自室へと向かった。


自室へと帰って来た緑川はひとまず部屋着に着替え、ソファーに寝転がる。


そして、無意識のうちに眠りについていた。





PM4.00。

緑川はロボットのコックピットにて、準備を済ませていた。


「こちらオーバーシア、いつでもいける。」


「はいよ!調査団が近づき次第、転送開始するね」


コックピットに内蔵されている通信機器のスピーカーから巻島の声が響く。


「よし!転送開始するよ…!!カウントは60!」


そう言われた緑川は、操縦桿をギュッと握りしめる。


「30!…29.28.27.」


「緑川くん!!」


突然通信が入って来た。声の主は局長。


「君が今から向かうところで反応があった!!着き次第戦闘おねがいできるかい!?」


「…無論、行けます。」


そう呟いた瞬間、転送された。


転送されたのは森の上空。

そのまま落下していきながは、例のモノを目視する。


「やはり奴らか!!」


そして着地と同時に片腕を持ち、抜いたナイフで腕を切る。


モノは悲鳴を上げる。


しかしなぜいきなり…?


そう思い、見下げると、そこには2人の少年。


「君たちは…」


緑川はボソッと呟く。



これが、全ての始まり。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る