第9話  尻ヒコーキ

畝が大分形になってきた。

この行程も既に、折り返しに差し掛かっている。

10日も同じ仕事を繰り返すと、さすがに上達するもんだ。

力の入れ所や抜き所がわかりはじめていた。



「よいしょぉーよいしょッ!」

「おぉー。今日は気合い十分だね」

「もちろんだ。本気のオレ、見たくは無いか?」

「アハハ、見せて見せてー」

「よっしゃぁーやったるぜーぃ!」



最近気づいたこと。

アヤメに誉められると、なんつうか……嬉しい。

こんな軽口にも笑ってくれるのが、楽しい。オレはより強い快感を得るために、有言実行するのである。


手早く、キレイに、確実に。

誉めてもらえる畝を作るんだ。

手早く、キレイに、確実に。

なんとかして『カッコイイ』の単語を引き出すんだ。


プスリ。

その時、ケツに痛みが走る。


「いてぇっ」


足元には紙飛行機が転がっている。

どっから飛んできたんだ?

振り替えると、森の中に1人の少女が立っているのが見える。

中学生くらい、だと思う。


「これ、君の?」


コクリと少女が頷く。

若い子がまたレトロな遊びをするもんだ。


「はい。あまり人の方を向けないようにな?」


またコクリと頷く。

難しい年頃だろうに、随分と素直だな。

それはさておき、畝作りますか!


手早く、キレイに、確実に。

なんとしても『カッコイイ』の単語を引き出し……ブスリッ。


「いってぇ!」


さっきと同じく紙飛行機が見つかるが、より凶悪な形状をしていた。

先端に画鋲が括りつけられている。

こんなもん投げたら危ねぇだろうが!


「攻撃的中。標的のダメージを確認した」


例の少女が双眼鏡を構えながら言った。

このガキ……大人をからかいやがって!

こんな悪い子は教育が必要だな、そうだろう?


2発目の紙飛行機を握りしめつつ、少女に一歩一歩歩み寄った。

こっちは怒りをむき出しにしているのに、相手は怯む様子が微塵もない。

そこにまた腹が立つ。

これはギチギチに叱らなくてはならない。

そのナマイキな目が涙に濡れるまでネットリとな!



「くぉらクソガキ! こんな危なっかしい遊びしやがって……」

「あら、スミレちゃん。学校はもう終わったのー?」

「アヤメちゃん、こんにちわ。今帰ってきた所です」



後ろから滑り込み気味に挨拶が飛んでくる。

オレは慌てて怒気を抑えた。

もし友達同士だったとしたら、雑な叱り方は許されない。

好感度に響くからな、慎重に行こう。



「ダイチくん。話しかけようとしてたけど、いつの間に知り合ったの?」

「今しがただよ。こいつをぶっつけられたんだ」

「あらー。また危ないことするのねぇ。ダメじゃない」

「アヤメちゃんに悪い虫がたかっていたので、サクッと追い払おうかと」



ほう……農作業に勤しむ好青年に向かって『悪い虫』ときたか。

今や立派な従業員なんだぞ、おう?



「ダイチくんはね、真面目なお手伝いさんなんだから。そんな事言っちゃダメだからね」

「そんなことないです。凄く不純な念が溢れてました」

「えー、何それ。気のせいだって」

「たぶんですけど『格好いい』とか言われたがってました。見ていて痛々しいほどのアピールで」



おい、シレッと心を読むんじゃない。

それアヤメに聞かれたらダメなやつ!



「そんな訳無いよ。ダイチくんとはそういう関係じゃないの。そうよね?」

「ハイ、ソウデス」

「一緒に暮らしてはいるけど、全然そんな感じじゃないもの」

「ハイ、ソノトオリ」

「その割には心がささくれているようですが……わかりました」



スミレという少女はそこで帰っていった。

できれば二度と会いたくない。

と思っていたが、以降やたら会うようになった。


午後の農作業中はもちろん、夜のTRPGタイムにも顔を出してくる。

どうやら隣の松崎さんの娘さんらしく、夜でもお構いなしにやって来るのだ。



「アヤメちゃん、ダイチさんにあまり近寄ってはいけません。髪の匂いをスンスンされますよ」

「何を言ってるのかね、君は。失礼な発言はやめたまえ」

「そうよ、ダイチくんは真面目なんだから。だらしないタイプじゃないよ?」

「そうだそうだ、そんなに嗅がないぞ!」

「いいえ、彼はロールキャベツ男子です。油断するとヤられます」

「ヤられるって、何を?」

「ヤられます」



念押すなよ!

あと目線がオッサン臭いぞ!

少しくらいは恥じらいをもてよ!


ちなみにコイツ、TRPGがすんげぇ上手い。

オレがやって来る前は、アヤメと2人でやってたせいらしい。

そこがまた色々と腹立たつわ!

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