赤道を越えたら〜ふたつの境い目

壮絶なアルバムといえる、2014年リリース「日出処」

その4曲めの、ある意味やはり壮絶と思える曲。

"赤道を越えたら"


聴いてみましょう。

始まりをぼかすようなドラムフィルイン。

しょっぱな男性のささやきは、ボサノバのパロディのよう。

まあ、このアルバム自体、怒れるパロディ、突き刺さる演劇のようなものかも。

しかし、いいなあ、最高。リズムもコードも。ブラスと男声のユニゾンも。

さすがラテン好きの姉さん。


などと思っていると、Hey! と1拍半早く歌い出すAメロ。

しかも、その時のコードのテンションから半音ズレた音「G(ソ)」。

男のメロディ終わらないうちに、違うよ! みたいに突拍子もない姉さんの声。


ラテンでは、ベースとかが「1拍」早く前の小節から鳴らすことは普通にある。

だがこれは「1拍半」だし、不協和音の構成。普通じゃない。

林檎姉さん自称「POP職人」なのに。たくさん売る人なのに。


しかし、何回か聴いていると。

Hey! の音を不自然と感じなくなってる自分に、おれは気がついた。

Hey! のとき、おれの頭の中で「Cm on B♭m」が鳴るようになったのだ。

それは、直前までのいくつかのコードで、それらの構成音が脳内に蓄積していった結果なのかもしれなかった。

Gは「Cm on B♭m」というコードの一番高い音。

つまり、突然のへんな音が登場するまでに、その下地が作られていたのだった。


おそるべし——




けどまあ、そんな必死に指摘するほどのことでもないかもだし、結局POPでキャッチーで、素晴らしい曲になっているし。 

おれのひとり相撲かもしれないし……。

でも楽しいな、こんなふうに考えて遊べる林檎さんの曲は、やっぱり。


ここで、いやがおうにも再確認する、おれ。

林檎さんは、やっぱサウンド、なのです。


林檎さんの曲では、詩の解釈のことが大きな話題になります。

けれど、おれの場合、75%サウンドで姉さんの曲を好きになってしまいます。

彼女の膨大な、ほんとうに膨大な数と種類からなる、肥沃なバックグラウンド。

そこから芽を出し、ニョキニョキと茎を伸ばし。

太陽を浴びて、水をもらう。

暗い夜にも密かに築きます。

苦しんで、なんとかいいところに枝葉を伸ばします。

まわりのひとに、手入れをしてもらうこともあります。

そうして花咲き実をつける、すばらしい楽曲たち。


「無罪」だって「風俗」だって、最初はサウンドの素晴らしさにやられた、おれ。

甘くて苦い実を食べて涙を流すと、舌にのった種が、なにかを語っていた。

あふれる涙は、そんな詩でさらに増すわけです。


 


姉さん。

あんたやっぱり。

うま過ぎる。


 


PS:この曲のしょっぱなの男声スキャットは、なんとイヴァン・リンス!

あとこの曲のエンディングから、次の曲"JL005便で"のオープニング。それはアルバム「日出処」の聴きどころのひとつです! ピンクフロイドみたいだ!


PS2:この曲の詩のこと。

男と女も、作り手と評論家も、右も左も、南も北も、新も旧も、愛も憎も……対立するものみんな、境い目はつなぎ目でしょ?  ガチャガチャうるさく騒いでるけど、目を閉じて、いっぺん冷静に考え直してみなよ。地球は丸いんだよ。

っていう風に聴こえます。

一見ぜんぜん違う立場の「G」の音も、結局ゆるやかにつながった、音の仲間だよ。

ということ。


ああ、林檎姉さん。

おれ、もう、なんていったらいいか(なんかいうのが書き手)。←遠藤さん風ひとりつっこみ





あ、iPhoneより送信 ということに





PS3:

男性スキャットのメロディ。ボサノバにも通じる、哀愁。

ここで、わたしは思い起こすフレーズがあります。

少し似ているメロディ。

「江戸の旋風」という番組のメインテーマ。

あるいは「夕映え作戦」という光瀬龍さん原作のNHKジュブナイルドラマの

メインテーマ。

「江戸〜」と「夕映え〜」は同じもので、服部克久さん作曲。

このかたは、皆さんご存じかと思われますが、作曲家、編曲家の大御所です。

そしてその息子さんは、服部隆之さん。

やはり、いまをときめく作曲家、編曲家です。

半沢直樹、下町ロケット、宇宙兄弟などなど、数々のドラマの仕事もされています。

そして、事変の「女の子は誰でも」の編曲をされています。

「江戸の旋風」

「夕映え作戦」

林檎姉さんのお父様が見ていたかもしれません。

もしやお兄様がテレビをつけていたかもしれません。

ああ。

つながれていく。

広く紡がれていく。

継承され育っていくのです。

クラシックも、ボサノバも、日本歌謡もロックもテクノもJPOPも。

それはそれは。

うつくしい。

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